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第61話
「徹夜だったから、貧血……かもですね」
「貧血はひどいのか?」
「スポーツ貧血の名残です!」
「徹夜だったのは、私に寝床を譲ったからか?」
そうですけどそうじゃないです。
貴方の自慰が原因です。
なーんて言えないから、そう言うことにしとこう。
「え、ええ」
「…………今日からはこの部屋を使いなさい」
そう言って示すこの部屋は、二階にある三部屋の内の最後の部屋だ。
他の部屋は生活感が漂いすぎるくらいの部屋だったのに、この部屋だけは埃が溜まっているだけで汚れ物も食べ物のゴミも散乱していなかった。
壁にリンのものらしい、ちょっと個性的な服が二着ほどかかっていたけれど、生活感はそれくらいで……
僕はここが、リンの部屋だと思っていた。
「いいんですか? ここはリンさまの部屋じゃ……」
「この家にリンの部屋はない。あいつが空き部屋を勝手に使っているだけだ」
トーマは壁にかかっているリンの服に気付いたのか、それをハンガーごと外して背を向ける。
「布団も用意しておいた、寝袋で寝るのはやめなさい」
「えぇー」と不満の声をあげそうになったのを飲み込んで、「ありがとうございます」って返す。
あの寝袋はとても寝心地がいいし、快適なのに……そりゃいつかはちゃんと布団で寝ないとって思ってはいたけれど……でも、寝袋で寝ているトーマに言われたくない言葉だった。
この家に客用布団なんてものがあったんだって触ってみると、どこか硬くて新しい匂いがする。
折り目がしっかり残ったままのシーツを見て、もしかして寝ているうちにトーマが買いに行ってきてくれたんだろうか? と思った。
「っ ぅ、うぅ、ままのぉ」
「ルカさま、ままのはもう起きましたよ。びっくりさせてしまいましたね、ほら泣き止んでください、お目々が溶けて流れちゃいますよ?」
とんとんと背中を叩きながら宥めていると、服を片付けてきたらしいトーマが戻ってくる。
「……ルカ は、君が倒れたのを見て、ショックを受けたようだ」
「あ……ルカさま。申し訳ありません、もう大丈夫ですよ?」
「…………ルカ は、君に、懐いているのか?」
「自惚れと笑われるかもしれませんが、信頼していただけていると思います」
しがみついてシクシクと泣き続けるルカが可愛くて、胸がギュッと締め付けられる気分だ。
震える小さな体を抱きしめて、繰り返し繰り返し宥め続ける。
「ルカさまは、お父さまのことも慕っておいでですよ」
ハッと息を呑む気配と共に、怒り出したいような悲しみたいような複雑な色味を宿した瞳と視線があった。
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