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第65話

 急いでドアを閉めて玄関に駆け降りると、待ちきれなかったのかルカは自分で靴を履こうとしている最中だった。  邪なことを考えてしまった後ろめたさを感じながら、反対に履いてしまっている靴を直してあげてから散歩に出かける。  今日の昼ご飯はもう作ってあるからのんびり散歩ができるぞー! と歩き出して…… 「ルカさま、お花畑に行きましょうか」 「おはな?」  トーマの部屋から見えた菜の花畑は家のすぐ裏で、行って帰るにしても時間はかからない。  いつも買い物の往復や庭で遊ぶくらいだったから今日は楽しんでくれるといいな。 「黄色いお花がいっぱいですよ」 「いっぱー……いっぱ、い!」  むん と力を入れてしゃべるルカは上手く言えたのか照れくさそうに笑って僕の手に顔を押し付ける。 「ままの」 「はい」  呼ぶような名前の呼び方に、僕は膝を折ってルカと視線を合わせた。  小さな手で隠されてオパールのような瞳は見えない。  何か見たくないものでもあった? それとも目にゴミが入った? 僕は良く見ようと身を乗り出してもっちりと柔らかい頬に触れた。 「 ――――ちゅ」  ぷちゅ と頬で音が響く。  柔らかでしっとりとした感触が頬に残ってびっくりしていると、ルカがえへへと笑いながら抱きついてくる。 「ままの、しゅき!」  小さくて頼りない体が全身で自分に好意を伝えてくれているんだって、そう思うと胸の奥がギュッと押しつぶされるというか、胸がいっぱいになって苦しくなる感じがした。  腕の中で僕に頬を擦り寄せ、恥ずかしそうにもじもじと笑うルカは出会った時よりもさらに可愛い。 「ぼ、僕も! 大好きです!」 「しゅきー!」  そう叫んで抱きしめ合うと、どちらともなくえへへと照れ臭く笑い合う。 「ままの、しゅき」  もう一度言って、ルカは小さくすんすんと鼻を鳴らしてからぽすんと体を預けてくる。  鼻を鳴らすように匂いを嗅ぐのは、フェロモンを嗅ぎ分けようとするαやΩの自然な行動だ。  もしかして、フェロモンが漏れてたりする?  トーマから感じるのはαのフェロモンで、雰囲気からしてもトーマはαだ。その子どものルカもαの可能性はあるから…… 「……抑制剤はしっかり飲まなきゃ」  この家政夫の仕事はΩじゃないことが前提の仕事だ。  もちろん、嘘をついた僕が一番悪いのはわかっているけれど……バレたくないと思う。  自分を頼りにしてくれるこの小さな存在は、もう僕の心に深く根を張っていて……離れることを考えただけで泣きそうになってくる。 「? ままの、んっんっ」  紅葉のような手が僕の胸に触れ、慰めるように撫でた。  

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