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第68話
その微妙な態度をおかしく思わなかったわけではないのだけれど、問いかけようとする前に足元のハジメちゃんが「きゃん!」と一際大きく鳴いた。
さっきまで大人しくしていただけに一斉にそっちに目を向けると、つぶらな黒い瞳が遠くを見つめている。
ピクピクと動く三角耳が何かを感じ取っているんだって思った瞬間、佐知子さんが止めるまもなく小さな弾丸が飛び出した。
もちろんリードはしていたけれど、あまりの勢いに佐知子さんの手から弾き飛ばされるように消えて……一目散に駆けていく先にキジトラの子猫が走り去る後ろ姿があった。それを追いかけたんだってわかる。
でもそれよりも問題なのは、この畦道をまっすぐ行った先にある車道だ。
高架に沿うその車道はそれなりの車通りがあって、ルカと渡る時には少し緊張してしまう道だった。
そちらへとまっすぐに進んでいく姿は、あっという間に小さくなって……
「 っ!」
立ちすくんでしまった佐知子さんの気配に、とっさにルカを手渡す。
「ルカさまをお願いします!」
唐突に僕から佐知子さんに代わったことにルカはびっくりしたようだが、背中から泣き声は聞こえなかった。
「都筑くん!」
「大丈夫です! ハジメを捕まえるのは得意なんで!」
足元は畦道だし靴はなんの変哲もない紐靴だ。
何よりこんなふうに全力で走らなくなって随分と経つから、途中で転んでしまうんじゃないかって思った。
でも、それ以上に目の端を流れていく黄色い花の群れが、ぐんぐんと近づくふわふわのしっぽが、肺の奥底まで満ちる空気と血液に酸素が巡る感覚が……
涙が出そうなほど幸せだった。
「――――――よしっ!」
つんのめりそうになりながら、小さな体を抱き上げる。
ハジメちゃんは最初こそジタバタと暴れたが、すぐにバツが悪そうにぺろぺろと口の周りを舐めてから落ち着かなげに体を動かす。
「 っ、 っ」
久しぶりに全力で脈打つ心臓に押されながら、気だるい体を引きずって佐知子さんの元へと帰る。
びっくりしただろうに、ルカは泣きもせずに佐知子さんの腕の中から僕をキラキラとした目で見てくれていた。
「ちゅご! ままの、ちゅご!」
「都筑くん! あなた……足速いのねぇ」
佐知子さんはハジメちゃんが捕まったからかちょっとポカンとした様子だ。
「あはは、あり がとう、ござ ……います」
途切れ途切れの言葉は弾む息に遮られているせいだ。
幾ら酸素を取り込もうとしても拒絶されているような感覚に、眩暈を感じる。
「ねぇ、前から聞こうと思ってたんだけど、ご兄弟いらっしゃらない?」
ルカを下ろしてからハジメちゃんを受け取る佐知子さんはどこかソワソワとした様子だ。
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