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第69話
「あ は、やんちゃなのが二人、いま ……すよ」
下の弟はとにかく足が早くって、追いかけ回すのが大変だった。
さっきのハジメちゃんほどじゃないけれど、逃げ足は本当に早くって……いつもいつも追いかけるのに骨が折れたのはいい思い出だ。
「じゃあ、貴方の とって の、 」
ひ と吸い込んだ呼吸が喉に張り付く。
佐知子さんが嬉しそうにしてくる質問に答えたいって思うのに、ふらついて膝をついてしまった。
貧血を起こした時のように視界が薄暗くなって、佐知子さんの声が遠のいて……でもそんな中でもルカの「ぶ? たーい? ぶ?」って叫ぶような声ははっきりと聞こえる。
大丈夫だよって答えようとしたのにうまく唇が動かなくて、これはまずいって思った僕の耳に最後に聞こえたのは「都筑くんっ!」って名前を呼ぶトーマの声だった。
すぅすぅと健やかな寝息が頬をくすぐって、こそばゆくて目が覚めた。
最初は何があったんだっけ? って全然わからなかったんだけど、ここが新しく僕が使っていいよって言われた部屋だってことと、泣き腫らしたルカが腕の中で眠っているのを見て倒れたことを思い出した。
ルカや佐知子さんを驚かせてしまっただろうなって思うと、ちょっと申し訳なくなって……
「泣いた痕がある……ごめんね」
いつもはふっくら柔らかな頬が涙の痕のせいで少し固く感じる。
「――――やはりここに潜り込んでいたか」
ノックもなくドアが開き、トーマが硬い声を出した。
「トーマさま⁉︎」
「体を起こさなくていい。寝ていなさい」
「いえ! 大丈夫です! ……す、すみません! 僕……ご迷惑をかけてしまいましたね」
寝ていなさいと言われてはいとは言えない。
慌てて体を起こした僕に、トーマは険しい顔を向ける。
「えっと……」
倒れかけた瞬間、トーマに名前を呼ばれたような気がしたけれど……
「もしかして、僕をここに運んでくれたのはトーマさまでしょうか?」
「他に誰がいる」
「ありがとうございます! 重ね重ねご迷惑をかけてしまって……」
今日だけで二度だ。
二度もトーマの前で倒れて介抱をさせてしまった なんて、雇われの身としては失格じゃないだろうか?
もしかして、こんな騒動を起こしたからクビと言われたりするんじゃないだろうかって、掛け布団をギュッと握った。
「 ないのか?」
「え?」
「どこか、調子が良くないんじゃないのか?」
「あ……いえ、いつもの貧血です」
いつも使う言い訳がつるりと口から出る。
「熱もないし、脈も呼吸も普通だったから寝かせておいたが……午後から病院に行こう。私が付き添うから」
「へ⁉︎」
病院と聞いて、心臓がどきりと跳ね上がった。
付き添いなんてされたら自分の保険証に書かれているバース性を見られるかもしれない!
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