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第71話
Ωには三ヶ月に一度の発情期があって、性欲に支配されて何も考えられなくなる。それを抑えるために普段から抑制剤を飲んでいるのだけれど……
僕は市販の抑制剤が効きにくい体質で、発情期のたびにすごく苦しんでいた。
幸い、処方薬になるけれど僕に合う抑制剤が見つかって、発情期は楽に過ごせるようになった。
発情期は……だ。
それでなくとも副作用が問題視されている抑制剤で、認可が降りたばかりのそれは僕から発情期の開放をもたらすと同時に運動を奪った。
心拍数が極端に上がるような運動をすると息が苦しくなって意識を失う。
そんな状態じゃ水泳も陸上も、これまで打ち込んできたものは何一つ出来なくて……
「僕たちがにぃの志を継ぐ!」って言って、上の弟の尾張が水泳を、下の弟の最初が陸上を始めてくれた時は本当に嬉しかった。
今では、僕とホントに血が繋がってる⁉︎ って言いたくなるほどの輝くビジュアルを生かして、各競技の広告塔としても大活躍している。
「僕が抑制剤を飲まなかったら、弟たちはこの道を進まなかったかもだから、そこは良かったって思うけど」
マイナス部分を取り上げてもマイナスはマイナスだ。
プラスのところに目を向けるべきって両親は教えてくれて、僕もそうだと思う。
それでも、社長や大家の件があるから、完全に前向きになれるわけじゃない。どうしてΩに生まれたんだろうとか、どうしてΩはこんなに不自由なんだろうって悔しかったり悲しかった気持ちが生まれてしまう。
今だって……ほんのちょっと悔しかったり悲しかったりするのは確かだ。
でも、じゃあΩじゃなかったら弟たちの活躍やルカとの出会いがなかったんじゃって思うと、辛かったり悲しかったことも薄れてほんわかと胸が温かくなってくる。
「佐知子さんたちとも知り合えてよかったし……トーマさまとも…………」
じわ と胸に広がる感覚を振り払うように口を引き結ぶ。
「……あ! そう言えば抑制剤をもらいに行かなきゃだったんだ」
まだ数日分はあったけれど、新たに貰いに行っても問題ないくらいしかない。
もしものことを考えると頓服も多めにもらっておきたいし……
「ちょうど病院にって言われてたし、タイミングよかったのかも」
リンに休日の話をしたくても、まず会話に持って行くまでが難しかったからずっと休めなかったんだよね。
もしやこの職場は休日のないブラックなのかって思っちゃったくらいだ。
ルカと一緒のいられるのは苦じゃないけれど、病気の集まる病院に連れて行くわけにもいかないからほっとした。
「……でも、あの時なんで……トーマさまがいたんだろ…………?」
僕の呟いた独り言は、誰からも返事がもらえないままに消えていった。
夕飯は食べられるかと声をかけにきたトーマに起こされる形で目覚める。
窓の外はまだ少しだけ明るいけれど夜になりつつあるんだってわかる色合いだ。
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