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第77話

   リンはトーマが空になった食器をキッチンに運ぶのを見て、綺麗な色に塗られた爪が掌に食い込むほど強く手を握りしめて全身を震わせている。  何か……声をかけるべき?  でも、リンの性格上、僕が口を出すと余計に傷つくんじゃ……って思うと何も言い出せなかった。 「っ……主人に皿を引かせるなんて、ほんと失格!」  どん! と床を踏み鳴らされて、僕は大丈夫だったけどルカの体がわずかに跳ねる。 「ぴゃっ」 「うるさい!」  ぎゅっとしがみついてくるルカを抱きしめて、流石に見かねてリンを見返した。  僕にまっすぐ見つめ返されて……怯んだリンはトーマに助けを求めるように視線をキッチンに移したけれど、トーマは視線を合わせないまま洗面所の方へと行ってしまう。 「ひ……人を睨みつけるなんて、育ちがバレるよ!」  リンの吐き捨てるような言葉に「えー……」と思わなかったわけでもない。  でも一番はルカの前で見知った大人たちが言い争いをしないことだって思ったから、黙ったままルカを抱き上げて背を向けた。  出会った時と同じようにぎゅっと僕にしがみついて、にこにこと笑みを浮かべているけれど……今ならわかる。  この笑みはリンの癇癪をやり過ごすための笑い方で、楽しいから笑ってるんじゃないって。 「ルカさま、ままのはルカさまのことが大好きですよ」 「……しゅき?」 「はい、大好きです」  ルカは曖昧な表情をした後、僕の胸を撫でるような叩くような動きをしてからぽすんともたれ、えへへ……と可愛らしく笑い声を漏らす。 「るか、も、しゅき」  内緒話でもするかのように僕だけに告げられた告白は、僕の胸をくすぐってさっき起こった出来事の嫌な気分を消し去ってくれる。 「大好きー!」 「しゅきー!」  廊下で叫び合いながらむぎゅむぎゅと抱きしめあっていると、洗面所から出てきたトーマがそれを見て立ちすくむ。 「あっあっ……すみませんっ」 「いや……」  慌てて道を譲ったのだけれど、トーマは動かずルカを見たままだ。  もちろん! 僕は学ぶ家政夫なので、トーマが何を言いたいのかもうしっかりわかるようになっていた。 「いってらっしゃいのハグされますか?」  出かける前にぎゅってするのは鉄板だよね! 今まではともかく、親子の仲が近づいたならしたくて仕方がないのもわかる!   「…………ああ」  手を出したトーマにルカを差し出すと……なぜだか二人が微妙な表情で僕を見る。 「??? ルカさま、トーマさまにいってらっしゃいのハグしましょうね」 「…………あい」  なんとなく乗り気でない様子でルカはトーマに抱きつくと「いってらっちゃい」と早口で告げた。    

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