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第78話
「さっき咳き込んで、少しご機嫌ななめなのかもですね」
慌てて僕の方に戻ってきたルカはぎゅうぎゅうとしがみついて離れない。
いつもと様子が違うって思っていると、玄関にリンが立っていて……視線で人を射殺せそうなほどの眼力でこちらを睨みつけている。
小さな子どもに、そんな目を向けなくとも……とルカを抱きしめてリンが見えないように体をずらすと、小さな舌打ちをして出ていってくれたから、ほっと胸を撫で下ろす。
「本日は一日晴天だそうです。夕飯はほうれん草のキッシュ、にんじんとレーズンのラペ、クラムチャウダー、ベリーヨーグルトを考えています」
「わかった」
「ご飯とパン、ご希望はございますか?」
「任せる」
「承知いたしました」
最初の頃に比べて返事を返してもらえるようになったのを嬉しく感じて、ニコニコと笑顔で頷く。
こっちを見てもくれなかったのを考えると、随分仲良くなれたんじゃないかな?
「今日は明日の段取りをつけるから少し遅くなると思う」
「はい! ありがとうございます」
他に言いたいことでもあるのか、トーマは動かずに立ち尽くしたままだ。
今日の天気は言った、夕飯のメニューも言った、……他に何かあったっけ? って慌てていると、腕の中でルカが「 ちゃい」って小さく声を上げた。
これだ!
「いってらっしゃいませ!」
「……ああ、行ってくる」
なんだかちょっと不満そうな表情のトーマをルカと二人で見送って……昨日、三人でいたからちょっとがらんと感じられる室内に向き直る。
「お父さまがいらっしゃらないと、ちょっと寂しいですね。でも明日はいらっしゃってくださいますよ、よかったですね」
ルカは「ん〜?」ってきょとんとして首を傾げて……
そのあどけない動きが可愛くて、僕はしっかりと心の目に焼き付けることにした。
焼きたてのキッシュはふわふわといい香りがする。
少し多めに乗せたチーズについた焦げ目がいいんだよね! 少し肉が足りないかもと鶏ハムも用意したし……
「ベリーヨーグルトもいいけど、トーマさまは焼き菓子の方が好きそうなんだよね」
ヨーグルトとベリーでスクエアケーキを作っておくか。
アイシングで表面を飾って……出来立てを食べるのもいいけど、次の日に味が馴染んだやつも美味しいんだよね。
ルカに食事をさせてお風呂に入れて、テレビを観てご機嫌で踊ってくれているうちに急いで材料を混ぜてオーブンに入れる。
焼き上がるまでルカと一緒に踊って、焼き終わったケーキの粗熱を取るために網の上に移したら、ルカのおやすみなさいの時間だ。
「のーん」
今日読む猫の絵本を嬉しそうに掲げ、いそいそと布団に潜り込むと期待した目を輝かせるから、僕は弟たちで培った読み聞かせのテクニックを使って本を読んでいく。
ルカの選んだ本はお気に入りだからか少しくたびれ気味だった。他にもいっぱいシリーズが出ている本だけれど、この家にあるのはこの一冊だけでだった。
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