79 / 142
第79話
チャトラの「のーん」はかけっこ大好きな子猫の男の子で、いろいろなものに興味を持っては突っ込んでいくって話だ。
他にも長靴を履いて出かける話とか、お花を探しにいく話とかいっぱいある。
手元にあるのはリンゴを探すもので、最後には木に登って世界で一番美味しいリンゴを採って、食べるぞ! ってなった時に、お父さんお母さんにも食べさせてあげたいからって、あれだけ食べたがっていたリンゴを我慢して家に持って帰るって内容。
ルカにはもう少し言葉の少ない絵本でもいいんじゃないかなって思うけど、本人が目をキラキラさせてこれがいいって言うんだからしょうがない。
手を握ってと言うから手を握りながら、ゆっくりした口調で読んでいく。
昨日も読んだし、きっとそれまでも繰り返し読んでいる話なのに、毎回毎回嬉しそうに聞いてくれるから、僕も嬉しくなっていく。
「 ――そしてお父さんとお母さん、そしてのーんの三人で真っ赤なリンゴをいただきましたとさ」
「リ、ゴ!」
「リンゴ」
「ゴ!」
「はい、リンゴですね」
「リ、ン……ゴ、るかはしゅき」
「ままのと一緒ですね、ままのもリンゴ大好きです」
そう言うとルカは小さな指先で僕を指し、「リンゴ」と上手に発音をした。
僕が? リンゴ? さっきまでお菓子を作ってたり踊っていたりしたから頬でも赤いんだろうか?
「明日はご用意していませんが、明後日にはリンゴのデザートをご用意いたしますね」
「わっサクサク、しゅき」
「サクサク? イチゴの入ってたサクサクですか?」
こくこくと懸命に頷くルカに、じゃあアップルパイを作りますね と約束して、今度は子守唄の番になる。長い金色に見えるまつ毛パチパチっと揺らしてから、おとなしく寝ようとしてくれる姿が、可愛いんだぁ!
弟たちは、まず布団に寝かせるってところからが大変で、そして布団に入ってからもプロレスを始めるからさらに大変で……
ルカに子守唄を聴かせながら、ふと弟たちのことを思い出して胸がキュッと苦しくなる。
家族からの携帯電話に届くメッセージは毎日毎日ものすごい数が増えていっていて……そろそろ爆発するんじゃないかなって怖くなってたりする。
別に見たくないわけじゃない、そうじゃないけれど……
きちんと就職先も住むところも見つけて、独り立ちします! って出てきたのに、家政夫をやっているなんて言ったら心配させてしまう。
ましてや、就職するはずだった会社と住む予定だったアパートのことがバレたら……
「うちの親は過保護だから」
だから、Ωでも今までのんびり暮らしてこれたんだけどね。
ともだちにシェアしよう!

