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第80話

「でも……一度、きちんと連絡入れないとな」  ルカの穏やかな寝息を邪魔しないように呟くと、そっと手を布団の中に入れて立ち上がる。 「おやすみなさいませ」  健やかな顔で微笑みながら眠るルカに声をかけて、そっとドアを閉めた。  二階には先ほど焼いたヨーグルトとベリーのスクエアケーキのいい匂いがしていて、端っこをちょっとつまんでしまおうかと、軽い足取りで階段を降りながら思う。  ――――ガチャ  「あ」と思った時には玄関扉が開いて、トーマが顔を覗かせる。トーマも玄関へ入ってすぐに僕と鉢合わせるとは思っていなかったのか、ハッと顔をあげて眼鏡の奥の両目を細めた。 「ただいま」 「おかえりなさいませ」  急いで階段を降りきり、荷物をもらおうと手を差し出したところでトーマの視線が玄関の外へ向かっていることに気がつく。 「こっちの荷物も運んでよ、大事なファイルも入ってるから、丁寧に扱ってよ!」  書類の束の入った大きなビニールバックを投げつけるように渡され、思わずふらりとバランスを崩しそうになった。 「リン、それは人にものを渡す態度じゃないだろう」 「僕は普通に渡したの、都筑がわざときちんと受け取らずによろめいて見せただけ!」  今朝のことを引きずっっているのか、相変わらずリンはアクセル全開だ。 「ではこちらはトーマさまのお部屋に  」 「僕の部屋に入れておいて。あと今日はこのまま泊まるから準備しておいて」  さっさと上がろうとするリンをトーマが手で押し留めた。  トーマの緩く振られる首を見て、リンが不思議そうに目を瞬かせる。 「トーマ? どうしたの?」 「仮にも義兄とは言え、アルファのいる家にオメガが泊まるのはよくない」  リンはトーマの言葉を自分のいいように解釈したようで、「僕のことオメガだって覚えててくれたんだ?」って頬を赤らめて笑顔を見せた。  その様子に対して、トーマはどこか冷ややかで…… 「泊める部屋がない」 「え? 二階の姉さんのへ   」  部屋 と言いたかったんだと思う。  でも言葉は途切れてその代わりに僕の方へと鋭い視線が投げられる。  悪意のこもった視線は体を傷つける質量はないはずなのに、僕は痛みを感じてギュッと目を閉じた。 「あんたの部屋は一階って言っただろ! なんで僕の部屋を使ってるの⁉︎ 図々しいにも程がない⁉︎」 「彼に二階の部屋を使うように言ったのは私だ」 「っ! なんで⁉︎ あそこは姉さんが使ってた部屋で、僕だって使ってたのに!」 「君の服はまとめてある。都筑くん、私の部屋にある紙袋を持ってきてくれ、入り口の側に置いてあるからわかるだろう」   

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