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第81話

「ちょっと! 僕のものに触らないでよ!」  リンの腕は細いのに、僕を突き飛ばす力は強い。  踏ん張りきれなくて今度こそふらつくどころじゃなくて盛大に倒れ込んだ。 「都筑くん!」 「なんでだよ! トーマの側にずっといたのは僕でしょ⁉︎ 姉さんと別れてからもずっと支えてきたのに!」  トーマが自分ではなく僕を庇う姿を見て、リンはますますヒートアップしてボロボロと涙を流しながら僕に掴みかかって……  避けきれなくて襟首を掴まれた瞬間、ごぉん って鈍い音が後頭部で響いて後からじわりと痛みが広がってくる。 「……っ」  男兄弟で育ったからこれくらいって思うけど、やっぱり痛いものは痛い。  トーマが僕の様子を見ようと覗き込んでくる後ろで、リンはぶるぶると震えながら涙を零して、「どうなっても知らないから!」と叫んで出ていってしまった。  ステンドグラスの嵌め込まれた扉がカタカタと揺れて、叩きつけられた余韻が消えると引き絞られたような静けさだけが残る。 「都筑くん、ケガは?」 「ないですないです! ……あの、リンさまを追いかけなくていいんでしょうか?」 「しばらく放っておく。頭が冷えたらしれっと顔を出すだろう」  硬い表情は随分と怒っているようで、肌を刺すようなフェロモンの刺激を感じて身をすくめた。 「ああ、ぶつけたところを冷そう。こっちにおいで」 「いえっ大丈夫ですっ大丈夫……」  それよりもそのチクチクとしたフェロモンを引っ込めて欲しい……と心の中で祈りを捧げる。  僕をβだと思ってるからしょうがないんだろうけれど、フェロモンをダダ漏らしにするのはエチケット違反ですーっ! 「ソファに座って。今、保冷剤を  」  そう言いつつキッチンに向かったトーマの視線がじっとスクエアケーキを見つめているのに気づく。  こちらに戻ってくる時も、名残惜しげにそちらに視線が残っている。  明日のために普段より遅く帰ってきて、夕飯も食べてないんだからお腹も空いてるだろうし……   「まず、お食事の用意をしますね」 「いや、君の手当の方が先だから」  立ちあがろうとした僕を制して、トーマは僕の後頭部に保冷剤を当ててくる。  渡してくれたら自分でするのに、なんだか微妙な距離感で居た堪れないんだけど……保冷剤を渡してくれそうにないからなすがままになるしかない。 「……リンが…………義弟が申し訳なかった」 「いえっ僕も弟たちと取っ組み合いのケンカしてましたし、これくらいは……」 「君が?」  トーマは想像に失敗したのか、ちょっと面白さを感じたような顔で微笑む。  

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