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第82話
「小さな頃は、弟たちと毎日取っ組み合いですよ!」
「そうか……仲がいいんだな」
はい! と答えながら、未読のままどんどんと増えているメッセージを思い出して曖昧に笑った。
「リンは、別れた妻の弟なんだ」
「……はい」
ポツンと零された言葉は独り言のようで、返事が必要かどうかはわからなかったけれど……
「妻が出ていってから、何くれと世話を焼いてくれていたのがリンで……」
僕の後頭部を冷やす手は動かないし、言葉は先を見つけられない様子で途切れたままだ。
「……ルカ、に、……ルカが、いなくなった時も、 」
ぽつ と途切れた言葉と同時に手から力が抜けたのか、保冷剤が僕の背筋を滑り落ちていく。
「ひゃっ」
冷たい軌跡は背骨に沿ってまっすぐに服の中を進んでいくから、そんな場面じゃないってわかっているのにとっさに変な声が出た。
すごく空気が読めないなって自分自身でも思って、恥ずかしいし服の中は冷たいしで逃げるようにソファを立とうとして……トーマに引き戻される。
「じっとしてて」って言われて、おとなしく両手を膝に置いて歯を食いしばっていると、トーマの指が背中を伝っていくのがわかった。
人差し指? 傍のは親指だと思う、それから肋骨の上のあるのは中指だと思う。
服越しでもわかる熱い指先がてんでんばらばらに動くから、敏感なところもそうでないところも一気に刺激されて、「ぁ……んっ」って声が出てしまった。
これならまださっきの「ひゃっ」って言葉の方が幾分もマシだったのに!
わなわなしながら振り返ると、ポカンとした表情のトーマと目が合った。
「も、もうっ自分で取りますから!」
今度はトーマに遮られる前に立ち上がって、服の裾から保冷剤を取り出す。
「もう大丈夫です! 夕飯の準備しますね」
そう言うとトーマがハッと我に返り、気まずい表情をして「頼む」と呻くように言った。
ベリーとヨーグルトのスクエアケーキは好評で、僕が明日のおやつの分ですから! 味が馴染むともっと美味しくなりますから! って訴えてやっと手を止めてくれた。
「料理が美味しすぎるのが悪い」
こっちに責任転嫁するの⁉︎ って驚きもあったけれど、美味しいから食べてくれているんだって思うと満更でもない気がして。
「明日はもっと美味しいデザートをご用意しておきましたからね」
「! ……何を作ったんだ?」
「お楽しみにしててくださいね」
ここで素直に教えてしまってもいいんだけど、焦らされた方が美味しく感じちゃうからあえてトーマに向けて人差し指をそっと立てた。
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