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第101話

 僕に押し出されて布団の反対側に転がったトーマが微笑ましいものを見る目でこちらを見ている。  優しく細まる瞳には僕の四つん這い姿がしっかりと映っていて…… 「手を貸す? それとも薬を塗ろうか? それとも絶景を見ててもいい?」 「 っ  っ、  〜〜〜〜っ」  初日に感じたあのクールな気配はどこかに溶けて消えて、いたずらっ子のように笑うトーマが手枕をしながら笑った。  ルカが服の裾を引いて「おこ?」と恐る恐る尋ねてくる。  「怒ですっ!」って答えられたらよかったんだけど、「そんなことないですよ、すぐに朝ごはんをご用意しますからね」と穏やかに返した。  良い子の返事をしてリビングに行ってしまった先で、トーマがニュースを見ている。  どうしてそこまで涼やかでいられるのか……いつも通りの隙のないスーツ姿に髪を整えて、冷たい印象を受けるメガネをかけた姿はどこからどう見ても出会った時のトーマだ。  ついさっきまで、僕に怒られていたとは思えない。  僕はソーセージを急いで焼き上げながら、キッチンの端に置かれているお皿に乗った小さく薄いアップルパイを見た。  それは僕の「おこ」の原因だ。  23センチの少し大きめのアップルパイだったのに、残っているのはこれだけだった。  原因は言う必要がないのかもしれないけれど、一晩のうちにアップルパイの90パーセント強がかき消えてしまっていた。もちろん犯人はそこでニュースを見ているこの家で一番の年長者だ。 「君たちの分は残して置いた。大変美味だった、また食べたい」  美味しい、また食べたいって言ってもらえるのは嬉しいけれど、そうじゃないっ!  僕たちは立つのが難しいくらい細いアップルパイを食べたいわけじゃない!  おやつの時間にルカとティーパーティーごっこをするのが楽しいのに! 吹けば飛ぶようなアップルパイではできない!  あと、三時のおやつには軽く焼き直してバニラアイスを乗せて……って考えていたのにっ! いたのにっ! 「たくさん、食べたかったなぁ」 「  ――――仕方ないだろう? 君があまりにも素晴らしくて、手放せないまま繰り返し求めて無理をさせすぎて、君には睡眠が必要だったんだから」 「ぴゃっ!」  背後から唐突に言われて、いつもの事ながら飛び上がってしまう。  その拍子に後ろのトーマにぶつかって……でもいつもと違うのはしっかりと抱き止められたことだ。  昨日、いや……昨日だけじゃなくて今朝も僕を離さなかった腕に支えられて、顔がぱっと赤くなったのがわかった。 「アップルパイは君の匂いとよく似ている」 「アップルパイ、ですか?」 「芳しくて、甘くて、香ばしくて、美味そう」  ヒソ と耳元で囁く声は普段より少し低くてセクシーだ。  

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