102 / 142
第102話
わざとやっているってわかっているのに、膝の力が抜けてしまいそうになる。
「そ 」
「アップルパイは私の好物なんだ、また作ってくれるかい?」
「るか、も、もー」
バタバタっと足元にルカが駆け寄ってきて、いつもの調子で抱きついてくるから、キッチンは大渋滞だ。
「つく 作りますっ!」
「ああ、頼む。ただ今日は、簡単なものでいい」
爽やかな夏のソーダ色の瞳は清廉潔白で潔癖と言う印象なのに、ルカを連れてリビングに戻って行く時にさりげなく腰を撫でて行くのだから……
「ハレンチだ」
ルカが変な言葉を覚えちゃダメだと思って呻くようにしか言ってないけれど、トーマには聞こえていたらしく、こちらを見て優しく微笑んだ。
『飯野選手のインタビューを 』
アナウンサーの声が聞こえた途端、フォークからポロリとソーセージが落ちてしまった。
ど っと跳ねた心臓を宥め、オレンジジュースを一口飲んでからテレビの方に視線を向けた。
「尾張 だ」と心の中で呟く。
テレビ画面の中ではパァンって音と共に筋肉をしならせながら各選手が青いプールに飛び込んで……誰よりも早く、むしろ元々水に生きる生き物だったんじゃないかって思わせる動きで、尾張 は他の選手たちを引き離して……
「しゅご! しゅっご!」
目の前のルカがキラキラと目を輝かせて尾張 の水泳を食い入るように見ているのが嬉しくて、僕もニコニコしながら「すごいですねー」って相槌を打つ。
インタビューでは、家では絶対に見せないよそ行きの表情を作っているからか大人びて見えた。
ほんの一、二ヶ月しか会っていないのに、随分と成長したなって……嬉しくなっちゃって泣きそうになる。
「イーノフーズのご令息だそうだ」
コーヒーを飲みながら言うトーマの声は少し硬い。
そう言えば、以前にイーノフーズとの会食でー……なんてこともあったなって思い出した。
トーマにとって苦い思い出なのかもしれないから、僕はあまりその話をせずに相槌だけを打ってテレビの方を向いていた。
僕よりももっと鋭利な感じの顔立ちの尾張 は、坊主にしてるし体つきが出来上がってきているから、ぱっと見の印象はちょっと怖がる人が多いんじゃないかなって感じ。
尾張 のインタビューが終わって今度は最初 だ。
母さん似の線の柔らかい顔立ちの最初 は、ふわりとした癖っ毛が茶色いせいか一部では「天使ちゃん」なーんて呼ばれていたりもした。
二人が並ぶと……
「あっ! はーちゃんの方が大きくなってる!」
最後に並んでインタビューを受けている姿が映ったけれど、最初 の方が少し大きい……僕が家を出る前までは、尾張 の方が大きかったのに!
ともだちにシェアしよう!

