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第103話
「えぇー! りぃくん、背が追い抜かされてるよ! はーちゃん、どれだけ大きくなったの⁉︎」
何かにつけて競争していた二人だから、身長についても色々ケンカしたかもしれない、いや絶対にしてる。
そんなことを考えていると、自然と笑顔になってしまう。
テレビの中では、「りぃくん! こっち向いて!」「はーちゃん! こっちみてー!」なんて黄色い声が飛んで、よそ行きの顔をした二人はにこやかに手を振っている。
「二人に随分と詳しいのか」
「はい!」
「…………ああ、陸上と水泳をやっていたからか」
トーマの言葉はちょっと刺々しく、昨夜甘すぎるほどの口調で喋りかけてもらっていたせいか、その冷たさに僕は一気に現実に引き戻された。
あんなことをしちゃったとしても、僕は家政夫でここで雇われている身の上なんだから、食事中にテレビを見て大きな声を出すのは正しくないよね……
ルカの教育にもよくなかったなって反省して、慌ててぺこりと頭を下げた。
「しゅご、いね! りぃとはー、かっくいい!」
ちょっと落ち込んだ僕の袖をくいくいと引っ張って、ルカは内緒の話をするように僕にこっそりと言ってくれた。
「本日は午後から不安定になりそうですので、折り畳み傘を持っておいた方がいいようです。夕飯はビーフカレー、お豆腐とじゃこのサラダ、ほうれん草のおひたしとカットフルーツです」
いつも通りルカを抱っこして見送りしていると、トーマはちょっと溜め息を吐いた。
毎日このやり取りで、無表情で立つトーマをルカが「いってらっしゃい!」って言って押し出すのが定番なのに?
「……今日は遅くなるから、出前でも頼みなさい」
「でも 」
「ゆっくりして」
上げられた手が、ルカじゃなく僕に触れようとしたのが空気感で分かった。
トーマはゆっくりと指の甲で輪郭を撫でるように触れてくるのがクセだって分かってたから、ちょっと首を傾けて…………
「いってらっちゃい!」
元気のいい声と共にむにゅって感触が頬にぶつかる。
極上のぷにぷに感が弾む気持ちよさは例えようのないものだ。
「 しゃい!」
ルカが僕にぎゅうぎゅうと抱きついて、トーマに向けて懸命に「いってらっしゃい」を繰り返す。
僕とトーマの間に立ちはだかる頑なさは鉄壁の守りのようだ。
思わずトーマの方を見るとぽかんとした表情をしていて、息子の行動に驚きを隠せていない。
「ルカ?」
「…………」
何も言わずにぷいと顔を背けたルカはますます僕にしがみつき、普段通りの様子はかけらもない。
トーマと視線を交わして、なんとなく……何かを感じとっちゃったのかなって思うと気まずくなって曖昧な笑みが漏れた。
「今日、また仕事の調整をして帰ってくる。君が病院に行けるように」
「はい、ありがとうございます、よろしくお願いします」
堅苦しい返事をした僕にトーマはちょっと傷ついたようだったけれど、腕の中にいるルカを見てから緩く首を振って出勤していった。
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