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第104話
以前から冷たい人ではなかったけれど、昨日のことがあってから急に距離が近くなったのは確かだ。
「いや、めちゃくちゃ距離は近くなっちゃったんだけど……」
思い出しただけでじわじわと熱が項を焼くようで……慌てて首を振る。
今までΩらしくない外見のおかげか、それとも体格が良すぎるからか、僕をそういった対象として見てくる人はいなかった。だから誰かとどうなるとか考えたこともなかったのに、現実はあまりにも唐突だった。
今になってじわりと初体験をしたのだと、混乱が押し寄せてくるようでパニックになってしまいそうだ。
唐突な熱はあのまま発情期になだれ込むようなことはなかったけれど、間違いが起きてしまったのは確かだ。幸いなのは僕の匂いをトーマがりんごの匂いと間違えてくれたこと……と、普段からお尻を弄ってるって思われたこと、だけど。
「僕っ……そんな……しないしっ、い、いやらしい子でもないですからねっ」
トーマの去っていった玄関に向かっても無駄だとは思いつつ、都合が良い分、修正することもできないままにするしかない。
βじゃないとバレたら、ここにはもういられないんだから。
「さーて、ルカさま。ままのはお洗濯をしたいと思います。しばらくの間、遊んでいただけますか?」
トーマはゆっくりするようにと言ってくれたけれど、色々なものでビシャビシャにしてしまったラグやソファーカバーだけは絶対に洗わなきゃって思っていると、「ままの」って小さい声が上がった。
震えるようなか細い声は、不安を掻き立てるだけじゃなくてルカ自身が抱えている不安を僕に教えてくれる。
「ルカさま?」
「ままの」
もしかして、僕とトーマのやり取りが普段と違うから、お父さんを取られるとどこかで感じとったのかも……?
一昨日からリンが来なくなって、ルカ的には父を独り占めできた気分だったのに水を差された気持ちになって、不安なのかもしれない。
「ままの」
もう一度、僕を呼んで……ルカのオパール色の瞳はうるうると水を湛えて揺れている。
「はい、ルカさま。お父様がお仕事に行かれて寂しいですね」
「……」
このなんとも表現しにくい表情はなんなんだろう?
僕の観察力がもう少し高かったら読み取れたかもだけど、今の僕のレベルじゃ無理そうだ。
「おかえりになりましたら、お渡しできるようにお父さまの絵でも描きませんか?」
すん と無表情になったルカが静かに僕の腕から降りて、静かに玩具で遊び始めたから機嫌を損ねてしまったのは間違いないようだけど……
朝告げた通り、トーマの帰宅は遅かった。
ルカはいつも通りの時間に布団に入って、もうぐっすりと夢の中の住人になってしまっている。
今朝、少し寂しそうだったからおやすみなさいの挨拶くらいはさせてあげたかったな……って思いながら、「おかえりなさいませ」と頭を下げて出迎えた。
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