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第107話
「君はもっと自信を持っていい。とても素敵な人だ」
「っ……煽てても、今日はアップルパイを焼いてませんよ!」
そう言うとトーマはちょっと心外だとでも言いたそうな顔をしてから、「それは残念」と艶っぽく言う。
「今日も君は煮たリンゴのいい香りがしたから作ってあるものだとばかり思っていた」
「同じものばかりは栄養に良くありません」
それでなくともデザートが大好きなトーマだ。
塩分も糖分も摂りすぎている。
「……週に一回くらいなら、やきますから。それで我慢してください」
「っ……はは! 君は優しいな。そんな考えをしていると、搾取されてばかりになるぞ」
「搾取?」と問い直す前に、そっと伸ばされた手が僕の肩を包んでくる。自分が気づかなかっただけで肩を随分と冷やしてしまっていたんだってわかった。
それを温めるように、トーマの大きな手がゆっくりと動く。
「僕は、搾取されたんてこと……ないですっ」
「そうかな?」
心地よい体温は抗い難くて……僕は「搾取なんてされてません」って言った言葉を撤回する羽目になってしまった。
携帯電話を見て、カンストしてしまった未読メッセージの数の数字に少し恐れを抱く。
最初のうちはこっそり見ていたけれど、予定していたアパートにも入れなかったし、就職もダメになって……なんて言っていいのかわからなくてずっと放置していた。
それでも……と、ちらりと横で眠るトーマの寝顔を見て、勇気をもらう。
「えっと……いろいろあったけど、今は家政夫をしています」
…………逆に心配をかけそう。
でもそこのご主人と肉体関係になって幸せです!
…………さらに心配をかける?
今の現状を伝えようと思ったけれど、思いの外、身内に話すと心配される状況なんじゃないかって気持ちが湧き上がってくる。
でも! でもでもでも! アパート追い出されたのも失業したのも結局はいいことになったし、ルカは可愛くて天使だし、トーマとは……
「んっ……都筑くん、もう起きた?」
「まだ寝てないだけです、もう寝ます!」
そう言うと目が開けられないままにトーマの手が僕の体を探すように動き、腕の中へと収めてしまう。
これじゃあメッセージは送れないな って携帯電話を手放すと、トーマの指が僕の指を絡め取ってギュッと抱きしめてくる。
「俺といるのによそと連絡?」
「家族にです、最近連絡してなかったから ……心配してると思うので」
「そうか」
鼻先を僕の髪に埋めて、トーマは心地のいい体勢を取れたらしくてその言葉の後に聞こえてきたのは小さな寝息だ。
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