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第109話
「申し訳ございませんが、用事がありますので失礼させていただきます」
ダメだ、危ない人だって思って慌てて立ち去ろうと踵を返す。
とりあえず家? それとも警察? とにかくまずは人通りの多いところに行って……
「おい! 待て!」
ドスの効いた声は低く掠れて、悪意を含んで僕に投げかけられているのがわかる。
どうして声をかけてきているのかも、どうしてルカのことを知っているのかも、どうしてこんなに偉そうに喋りかけられなきゃいけないのかもわからなくて、混乱した頭じゃまともな考えができなかった。
ルカを抱いて走って逃げるって手もあったけれど……もし、誰かに助けを求める前に僕が倒れてしまったら?
ダメだ。
ダメだ!
ここでも、Ωってことが足を引っ張って……ルカを危険に晒してる!
「聞いてんのか⁉︎ お前らが育児放棄してるってこっちは知ってるんだぞ!」
育児……放棄?
「俺たちはあんたが不審者だって知ってるけどなー?」
揶揄うように聞こえてきた声に膝の力が抜けて、その場でぺたんと座り込む。
不審者の向こう側からこちらに歩いてくる二人組が、携帯電話で男をパシャパシャと撮影しているのが見えた。
「写真とー」
「動画も撮っておいたよ」
不審者は突然現れた高身長の男二人組に気圧されたのか、「あ」「う」って言いながら後ずさっていく。
「えぇ? ここって朝っぱらから不審者出るような治安の悪さなの?」
「じゃあおまわりさん呼ぼうか?」
不審者だって小さい方ではなかったけれど、二人組に近寄られるとどれだけ貧弱な体かが浮き彫りになる。
「なん お前ら……」
なんとか言い返そうとしていたようだけれど、サングラスに丸坊主、そして見事な逆三角の体にのしかかりようにガンを飛ばされて……結局は走り去ってしまった。
「マジここ、あんなのいるの? にぃは可愛いから、心配なんだけど」
呟きながらサングラスを取ると、ふわっとした茶色い髪と同じ色の瞳が僕を見てきらりと光る。
最初 がへたり混んでしまった僕に手を差し出して立たせると、坊主頭の方……尾張 も寄ってきてサングラスを外した。
「にぃ、久しぶり」
最初 と違う真っ黒な瞳は力強くて、知らない人が見たら怖がることもあるけれど全然そんなことない優しい眼差しだ。
「りぃくん……はーちゃん……」
ぽつ と言葉を零すのと同時に目尻からもころんと涙が溢れてしまった。
切れた緊張の糸のせいもあったんだけど、久しぶりに二人に囲まれたからだ。
「 ぅ、ままの!」
ハッとなって慌てて涙を拭ってバギーを覗き込むと、ルカはベルトを無茶苦茶に引っ張りながら今にも泣き出しそうな顔をしている。
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