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第112話
「失礼ですが、あなたは新しい家政夫の?」
「はい」
身分証明に出した運転免許証と僕を見比べ、後ろの二人を見て戸惑っているようだったが流石に警察官としての態度を崩すことはなかった。
運転免許証の隣に置かれた尾張 の携帯電話を指し、警察官は言いにくそうに口を開く。
「こちらの方は、ルカくんのお母さまの番です」
「え……」
警察官自身も少し気まずそうに、ルカが遊びに夢中なのを確認してから声を顰めて早口で説明を繰り返してくれた。
「ルカくんのお母さまは運命の番を見つけられて、お一人で出て行かれたんです。この男がその相手で……」
もご と歯切れ悪く、警察官は「以前にもルカくんを連れて行こうとして騒動を」と付け加える。
「そんなっ……この人は無理やりルカさまを連れて行こうとしたんです! いくらお母さまの番とは言え……そうだ! 親権も野分さんが持っているはずです、なのに連れていくなんて……」
「ご家庭内のことなのでここから先は 」
警官は曖昧な表情を浮かべて、それでもなんとかしようとする僕を憐れみの目で見てきた。
「ただ、野分さんのことはこちらにも相談が入っていましたので……ルカくんのお母さまとよくお話をされた方がいいのではと」
「相談?」
「……育児放棄ではないかと」
そう言われて、僕は言葉に詰まった。
確かに、初めてあの家に訪れた時は、本当に小さな子供を育てている家なのか疑問に思うほど汚くて……生活も食事も、それにルカの態度も、そうじゃないかって言ってしまうには十分な環境だった。
でも、トーマは急ぎで住み込みの家事育児の代行者を探していて……
「以前はきちんとされていたのに、突然散歩にも連れて出なくなって」
「え?」
てっきり、離婚してからずっとあの状態だとばかり思っていたけれど、違うのかな?
「ハウスキーパーがこられてはいましたが、野分さんが主体でルカくんを育ててらしたんですが……いつの間にか」
少し遠い目をしてから、警官は苦い顔をする。
僕が知っているのは、廃墟のような庭とゴミと汚れで溢れかえった家と、決して幸せではない食事だ。
もちろんトーマが忙しいのは知っている。だから、生活の中で疲れてああいう生活に傾いていってしまったのかなって、推測はできるけれど……ハウスキーパーが通っていてあの状態というのは訳がわからない。
「住み込みの家政夫も短期間で代わって、何があったのか……」
「…………」
短期間で変わる理由には心当たりがなきにしもあらずだけど、僕は黙ったまま頷いた。
あんな手書きのチラシで募集しなければならないほど唐突に前の家政夫が辞めたのだとしたら、よっぽどだ。
「とにかく、突然野分さんのルカくんに対する態度が代わって、心配している人もいるんです。幸い、最近は落ち着かれているようでホッとしていたんですよ」
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