120 / 142

第120話

「ダメダメだぁ」  何がトーマを怒らせたのか……いや、怒らせたと言うよりはガッカリさせた? 悲しませた? ような気がする。  ってことは僕がトーマの期待する何かに応えられなかったってことだから…… 「まずは聞こう! そして改善だ!」  よしって気合いを入れて振り返ると、目を充血させたトーマが立っていてびっくりだ。  毎度毎度この人は人の後ろに立たないと気が済まないのかな⁉︎ 驚いて崩れそうになった顔をなんとか押し留めて笑顔に持っていく。  雇われてるんだから、笑顔が大事!   「トーマさま。おはようございます!」 「  っ」 「今すぐに朝食を用意しますね」  いつもの朝食の時間よりも一時間以上早い。  目が覚めたら軽く運動してから朝食を作り始めても十分に間に合うのに……今日に限ってものすごく早いから、まだ準備できていなかった。 「今朝はアーモンドトーストとかぼちゃのポタージュ、温野菜とフルーツヨーグルトです。卵料理をおつけすることもできますがいかがいたしましょうか?」 「…………いらない」  もそもそと返事が返る。  赤い目とその下のクマは、いつも朝はパリッとした印象のあるトーマからは程遠くて、昨日は良く眠れなかったんじゃないかなって思った。  やっぱり、突っぱねられても温かいスープだけでも持っていくべきだったな…… 「承知いたしました。ではすぐに用意いたしますね」 「朝食はいらない」 「えっ……少しお時間いただければベニエをお出しすることもできます! もしくはヨーグルトパフェでも……少しでもお腹に入れませんか?」  すがるように言うと、振り返ったトーマの顔は苛立たしげに歪んでいた。  泣きそうにも見える様子に、そっと手を伸ばそうとする。 「っ!」 「君はっ……」  弾かれた手が行き場を失って僕とトーマの間で揺れた。  ソーダ色の瞳は渦巻く感情で濁って、いつもの涼やかで氷が鳴りそうな美しい揺らめきはない。 「君は……やっぱり、今朝も家政夫なのか?」 「………………家政夫、ですので」  茶化すつもりなんてなかった。  だって僕は家政夫としてここに勤め始めたし、トーマだってそれを期待して雇ったはずだ。  だから、家政夫かと聞かれて家政夫だと答えることになんら問題はないはずなのに、トーマはひどくがっかりした表情を浮かべた。  でもそれが、昨夜の表情と一緒だってわかったから、僕はサッとトーマの前に回り込んで手を広げた。 「僕が、家政夫なのが……ダメなんでしょうか?」  もしかしてトーマは僕の仕事ぶりに不満があるんだろうか? 一生懸命やってたつもりだったけど、足りないことがあったとしたら?

ともだちにシェアしよう!