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第127話

  「体は? ヒートになりそうだっただろう?」 「あ……苦味はまだ残っていますが、ヒートの熱は治っています。時期じゃなかったし、突発的なものだと思います」 「そうか。私がフェロモンを放ったから、それに釣られたんだろう」  トーマは再び辛そうに目を閉じると、「本格的なヒートでなくてよかった」と呟く。 「はい……」  まだどこかで埋火が残っているのか、ホッとしたトーマの言葉を残念に思ってしまう自分もいて……慌てて首を振る。 「本格的なヒートなら、俺は迷わず犯しながら噛んでた」 「っ⁉︎」  飛び上がった僕の気配に気づいたのか、トーマは再び目を開けるとこちらに視線をやり……そしてほくそ笑んだ。 「そん……まだ薬が効いてないようですねっ衝動的にそんなこと言うなんて」 「衝動? ……そうだな、存外に心地いい」 「え……」 「だから俺は、家政夫から離れた君をもっと知りたいと思っている」  伸ばされた指先は血の気がなくて冷たいのに汗でしっとりと濡れている。  α用の緊急抑制剤の副作用の酷さは聞いてはいたけれど、起き上がれないくらい酷いなんて知らなかった。  でも、僕は知らなくてもトーマは知っているはずで……それを承知で使ってくれたことに、僕はまた泣きそうになりながらこくりと頷いた。  どうしても出勤しなければならないと言い張るトーマがタクシーで出かけるのを見送り、僕は急いでキッチンに戻ってルカの朝食の準備をする。  トーマの分は間に合わなかったし、喉を通らないと言うから作らなかったけれど、ルカの分くらいはちゃんとしないと。  カボチャのポタージュを温めて……ってしている時に、玄関の方からガチャンって派手な音がした。  ひどく乱暴に扉を開ける音にびっくりして玄関に駆けつけると、しばらく見なかったリンがブーツを脱ぐところだった。 「リンさま! ……ぇと、おはようございます」 「……」  おはようもお邪魔しますもないまま、リンは僕の存在が見えないようにさっさと二階へ上がろうとする。  黙って通すべきかそれとも止めるべきか迷ったけれど、以前にリンに向かってトーマは「もう家に来ないように」と告げていたことを思い出す。  トーマからも、リンが訪れるようなことは何も言われなかったんだから、止めた方がいいはず! 「リンさま! お待ちください! 今は旦那さまもいらっしゃいませんし、お控えください!」  階段を登っていきそうなのを前に立ち塞がって止めると、そこでやっとリンの目が僕を見た。  もともと猫の目のように綺麗に吊り上がっている目が、アイラインを引いているせいでさらにキツく吊り上がっているように見える。  そこに僕に対する憎しみ? が加わるものだから、気迫に押されて負けてしまいそうだった。 「僕がこの家に上がるのに問題があるってこと⁉︎」 「っ……旦那さまに確認を取りますので、少しソファーでお待ちください!」  

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