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第128話

 素直に「問題がある」ってい言ってしまうと、凶器のような爪で引っ掻かれそうで……僕はつい日和ってしまった。 「置いたままになってた忘れ物を取りに来ただけだよ! なんでそんなことであんたの許可なんているの?」 「私の許可ではなく旦那さまの許可です! すぐに確認いたしますから」  携帯電話を取り出して、渡されていた名刺の番号にかけようとしている僕を突き飛ばし、リンはあっという間に階段を駆け上がって…… 「え⁉︎ リ……リンさま⁉︎」  呑気に電話なんてしてる場合じゃないと慌てて駆け上がると、「ひゃっ」って可愛らしい声が上がってどすんと倒れ込む音が聞こえた。  階段を上がり切った僕が目にしたのは、開いたドアとへたり込んで泣きそうになっているルカ、それからトーマの部屋へと姿を消すリンだった。 「ルカさま⁉︎ どうされました⁉︎」  ぺたんと尻餅をついたルカは驚きすぎて呼吸も忘れてしまっているようだ。僕が体を揺さぶって、そこで初めて「ぅ……」と声を出す。  みるみるうちに潤んで行くオパール色の瞳には悲しさが溢れて、僕を見て飛びつくようにすがってくる。 「どん、された」  どん? 突き飛ばされた? こんな小さな子に⁉︎  あまりにもひどいと、泣きだしたルカを抱え上げてトーマの部屋へ駆け込むと同時に突き飛ばされて、思わずたたらを踏んだ。でも、吹き飛ばされたのはリンの方で、派手に本棚の方にぶつかってころんと転がっていた。 「リンさま! ここは旦那さまのお部屋で、立ち入られては困ります!」  はっきりと言った僕の声に驚いたのか、ルカはぎゅっと僕にしがみつく。 「ままの……声……っ」  ほと ほと と堪えるように泣くルカは、怯えて震えて腕の中で体を小さくしている。 「あっ……ルカさま、すみませ  「はぁ⁉︎ あんた、自分のことをママなんて呼ばせてんの⁉︎」  僕の声をかき消すように叫ばれて飛び上がった。  なんだ⁉︎ 飯野が「ままの」って呼ばせて何が悪いんだろう? ってびっくりして目を丸くしている僕の前で、リンは跳ね起きて再び僕を突き飛ばす。 「これだから! 雇われた他人を家に入れたくないの! いつの間にかトーマの横を狙ってるんだから気持ち悪い!」  何か反論を……って思ったんだけど、思わず言葉に詰まってしまったのは今朝のことがあったからだ。  耳の奥にはいまだにトーマが熱のこもった声で言った「いい匂い」という言葉が残っている。  項を噛まれるかどうかの瀬戸際で、Ωにしたら一生を左右するような危機的状況だったのに……それでも僕は、思い返すと   「あんたなんかすぐに追い出してやるんだから!」  まるで悪役の捨て台詞だ……なんて思っているうちに、リンはあっという間に出ていってしまった。

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