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第133話

 しばらく歩いて、ちゃんと入り口があるよね? って不安になってきた頃、門と警備員が見えてきたからほっと胸を撫で下ろした。   「ほら、入り口が見えてきましたよ。お父さまに会えますよ」 「   ……ぶー」 「ええ!?」  トーマに会いたくない? 「ぶー」なんて言葉を使ったのが初めてで、オロオロと慌ててルカの顔を覗き込む。  バギーを止めて「どうしたんですか?」って語りかけようとした瞬間、――――僕が吹き飛んだ。   いきなりの衝撃に受け身も何も取れなくて、さっきルカと高いって言っていた塀に思い切り叩きつけられてしまった。  肩にかけていた着替えやお弁当があったから頭を強く打ち付けなかったけれど、それでも強く体をぶつけて…… 「  っ!」  何? って尋ねるよりも先にルカに手を伸ばした。  何が起こったのかさっぱりわからなかったけれど、僕はこの小さな天使を守るんだって一心で体を起こす。  でも、バギーの上にはもうルカの姿はなく……ぎゃあ! と大きく上がった悲鳴と鳴き声を混ぜたような叫び声に、考えるよりも先に立ち上がってそちらを向いた。  男と華奢な人間がバイクに乗って……その間にルカを押し込んで押さえつけようとしている。  必死に手足をばたつかせてルカが抵抗を試みて暴れていると、「大人しくしなさい!」と鞭のような怒鳴り声が響き渡った。 「  リン、さ ま?」  フルフェイスのヘルメットをして声がくぐもっていてもわかる。  今朝も聞いた声だ。  なに……  何が起こってるの?  ルカが暴れているからバイクはまだ発車していない! 今なら届くって駆け出した僕の指先を掠めるように、けたたましい音を立ててバイクが走り出し……小さな手が一生懸命に伸ばされたのに、僕の手はそれを掴むことができない。  はっと絶望に見開かれたオパール色の瞳は、ついさっきまで電車に乗ったり弟たちに会ったりしてご機嫌にキラキラと輝いていた瞳だ。  それを、曇らせるなんて……!  足を蹴り出して一気に走り出すと、ふっと周りの音が掻き消えた。  目の端で警備員が動いたのがゆっくりと見えたけど、それもすぐに気にならなくなって……色のなくなった視界の中、そこを目指す道標のようにルカだけが色づいて見える。  ハジメちゃんを追いかけた時なんて比にもならない、楽しいとか気持ちいとかそんなことどうでもよくて、ただただ自分の手がルカに届けばいいって…… 「――――ルカを返せ!」  蹴り出した足があとどれくらい動き続けることができるのか、考えてはいられなかった。  くしゃくしゃに歪んだ両目から溢れた涙が僕の頬に当たって……バイクが曲がるために一瞬減速した時、やっと手が届いた。 「ぅ  あっっ!」  ルカの足がリンを蹴り飛ばすようにして腕から離れ、腕に飛び込んできてくれたから……  僕ができたのは傷をつけないようにルカを抱え込んで、自分の体をクッションにするくらいだった。      目が覚めると白い天井だ。  見慣れないけれど知っているそこは、抑制剤の副作用で倒れるたびにお世話になっていた病院の病室で……自分に何が起こったのか知るのは簡単だった。    

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