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第135話

 大袈裟に痛がる理由がなくなって、最初(はじめ)はちょっと不貞腐れていたようだけれど、頰の傷以外ないみたいでほっと胸を撫で下ろす。 「大丈夫そうだね」 「ん、はー、へーき!」 「そうですね、平気ですね」    点滴を入れている手は怖がらせちゃうから、右手でヘーゼルナッツ色の髪を撫でる。  懸命に僕の傷を気にしてくれるルカの目の縁は赤く腫れているし、綺麗な瞳は不安にゆらゆらと揺れ続けている。どれだけ怖い思いをしたのか考えると、胸が潰されそうな気持ちになって……  ぎゅっと抱きしめてよしよしと背中を撫でると、やっとそこで安心したのかしくしく涙を流し始めてくれて、緊張の糸が切れたようだった。 「りぃくん、その……バイクの人は?」  腕の中にルカがいる状態でリンのことを口に出すのは憚られて、視線だけで尋ねかけると尾張(おわり)は小さく頷き返してくれた。 「話を聞いてる最中だよ」  ふわっとした言い方だったけれどその険しい表情が、事態はもっと深刻だと教えてくれる。  警察に連れて行かれて事情聴取中なんだろう。  事態を正確に把握するために大事なことだとわかってはいても、腕の中で静かに泣き続けるルカを見ると沸々とした怒りが湧き上がって、どうしてそんなことをしたのかを聞くよりも前に殴りつけてやりたかった。  握りしめた拳が震えて赤い血が透明な管を通って逆流して…… 「にぃ」  ぽんぽんと優しく手の甲を叩かれて、自分がすごく険しい表情をしていたことに気づく。  「ちびもいるし。な?」 「うん……」 「それに、親父もきてるからいいようにしてくれるよ」  お父さんが?  一瞬、そっか、安心安心ってなったけど……それは僕にとっての安心だって気づいて「えっ⁉︎」って声が出る。  せっかく泣き止みそうだったルカが怯えて再び泣き出してしまったけれど、僕は大急ぎで立ち上がった。    案内されたのは僕が寝かされていた病室のある病院と同じ敷地内にある、トーマが勤めていると言っていた研究所だ。  普通は部外者は立ち入らせてもらえないんだろうけど、今回のことの話が伝わっているのか、それとも父がいるからかなんの問題もなく応接室まで通された。  ノックをして扉を開いたところで、僕そっくりな父の目と視線がぶつかったわけだけれども……    睨むと相手を萎縮させる父の目を見ていると、僕もそんなふうに周りに見えてるのかなって心配になる時がある。 「  ――失礼します」 「都筑くんっ!」  先に父が飛びついてくるかと思ってたけど、それよりも先に大きな腕が僕を包み込んだ。  ぎゅっと力が込められると温かさと共にふわりといつも感じるトーマの匂いに包まれて、泣きそうになりながら抱きしめ返す。

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