138 / 142

第138話

 力が入って硬い拳が、僕が触れたことで少しでも緩んでくれたらいいなって……そっと包み込んで温めるようにさすった。 「こんなことに巻き込んで……都筑くん、君を傷つけて、本当にごめん」  いつものように気にしないでくださいって明るく言いたかったのに、僕の口から出たのは「大丈夫ですよ」って小さな声だけだった。    昼間のことがあったから、ルカは布団に入ってもぐずるように僕の手を掴んで離さず、初めての頃のようにぎゅっと身を縮めてやっと眠った。  額にかかった髪をそっと払い、寝息が落ち着いたのを確認してからゆっくりとルカの部屋を出る。 「……ずっと待ってたんですか?」  廊下に立ち尽くしていたらしいトーマは僕が出てくるとトボトボと数歩だけ進み、そこで立ち止まってしまう。 「少し、話をできるかな? その……恋人として、話がしたくて」  手がくすぐるように触れてくるから、僕に否なんて選択肢はない。  指先を握るようにして応えるとトーマはほっとした顔でリビングに行こうと提案してきた。 「少し落ち着けるようにホットミルクを淹れますね」 「いや……そうじゃなくて……」 「? ココアになさいますか?」  甘いものが好きなトーマならこっちの方が喜んでくれるかもしれないと提案したけれど、反応は微妙だ。 「カフェインは控えた方がいいかと思ったんですが、紅茶かカフェオレを……」 「そうじゃなくて、…………恋人として向かい合いたいんだ」 「トーマさま?」  きょとんと返した僕に顔をしかめて、トーマは手を引いてリビングのソファまで連れてくる。 「恋人として話がしたいと言ったが?」 「え? えぇと……トーマ?」  天啓に近いひらめきのままに名前を呼んだ僕を、トーマは嬉しそうに微笑みながら見つめ返してくれる。  その瞳は僕が好きって告白した時と同じように、夏の日の青いソーダ色をしていて、中に氷でも閉じ込めているかのように揺れていた。  いつまでも覗き込んでいたくなるような魅力的なゆらめきだ。   「うん。俺は都筑って呼ぶ……都筑坊ちゃんの方がいい?」  真剣なのか冗談なのかわからない軽口に苦笑しながら「なんで?」って尋ね返すと、困ったような顔をされた。 「イーノそのママ食卓に」 「イーノフーズ!」  コマーシャルでよく聞くフレーズをリズムよく返すと、トーマの苦笑が漏れる。   「君は、知っていたんだろう?」 「父の会社がスポンサーになったことですか? もちろん、リンさんとのやりとりでそうだろうなって」  そう答えるとトーマはちょっと疲れたようにソファに沈み込んでしまった。 「そういうのは……もっと早く言ってくれ。今日、あの場で言われてどれだけ驚いたか」

ともだちにシェアしよう!