139 / 142
第139話
「……トーマは、僕をお父さんに会わせないようにしてたね」
「飯野社長はアルファだから、会わせるのはよくないって思ったんだ」
ムッと唇を引き結んで告げられるその一言がすべてを物語っている。
トーマは僕を他のαの前に出させたくないくらい、独占欲を拗らせているんだ!
そんなことをしてもらえるなんて、思ったこともなかったから……くすぐったくて、にやにやと笑いが漏れる。
「だって、飯野都筑だから気づくと思って……この読み方、うちの家族しかしない読み方なんで。他は『いいの』って呼びますもん」
「ああ、そのトラップにリンが引っかかっていた」
イーノフーズなんだから『飯野』だと思うよね、普通。
でも相手にきちんと向き合おうって人はきちんと調べるから、間違えることはないんだよね。
お父さんはあえて、仕事相手のふるいに使っているようだけど……
「トーマは引っかかりませんでした?」
「……俺は、君の名前を苗字だと思ってた」
バツが悪そうな顔で言われて、思わず吹き出した。
「えええっひどい! 僕のこと気にならなかった?」
「ちょっと……その、いや、君にも聞いてもらっておこう。急に会社に行った日があっただろう?」
先ほどまでの雰囲気が形を顰めてしまい、少しピリッとした気配が二人の間に漂い始める。
「あの日、俺が研究を進めていたデータが破棄されたんだ」
「え……えぇ⁉︎」
門外漢でもわかるその重大事件が起こっていたのに、僕は呑気に電話の一本ぐらい〜って考えていたんだから情けない。
研究所……Ωに関する様々な研究が行われていると聞いたけれども、トーマの研究はきっと重大な部分を担ってるんじゃないのかなって確信があった。
「リンが、…………本人は操作を誤ったと言っていたが……」
「……」
「幸い、リンには教えていないバックアップがあったからことなきを得たが……」
リンはトーマの助手だったし、同じ研究に携わっていたはずだ。
どれだけ大事な研究か知っているはずなのに、なのにそれを……?
「俺に怒られた腹いせだと思う」
「 ――――――っ」
とっさに作った拳がギリギリと音を立てた。
トーマの行っている抑制剤の研究が、どれだけ大事なものなのか、今の抑制祭が合わずに苦しむ人々を救うことになるのか……そんなことを一切考えなかったのか?
ぐらぐらと湧き上がるような怒りに、拳を握り締めた手がギチギチとおかしな音を立てる。
「リンは閑職に異動になったが、研究所を辞めたそうだ」
「え⁉︎」
「その後、義兄と手を組むことにしたんだ」
ソーダ色の瞳は室内灯に照らされているのに光が差さず、まるでそこが深淵であるかのように暗い影に覆われていた。
心配で見つめるトーマの横顔には険しさが浮かんでいたが、それと同時に後悔の感情も見え隠れしていて……
ともだちにシェアしよう!

