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第141話

 二人の歴史は僕とトーマの歴史より長いのは当然だ。  それをわかっていても、二人の歴史を感じるようなことを聞いてしまうと胸にモヤモヤとしたものが降り積もってしまう。 「ルナが親権を欲しがった時、本当はその方がいいって思ったんだ。でも運命を見つけて一人で出ていったルナに、子どもを渡すことはできないって調停員に判断されて……」  トーマの横顔は陰鬱に項垂れ、過去の記憶と向かい合うこの瞬間に、地獄を覗き込んでいるんじゃないかと思わせるには十分な雰囲気を持っていた。 「ルナと引き離された時、ルカはずっと泣き続けて…………ルカのためにも母親について行く方がいいだろうって思って、リンに相談したら  」  そこまで言われてピンときた。  あの家の惨状だ。  リンはきっと、ルカがきちんと育てられていない、虐待を受けているって理由を作ってルカを引き取らせたかったんだと思う。  そうすれば、一人になったトーマに近づくことは簡単だし、もし二人が番になった場合も、自分たちの子供だけを育てることができる。  したたかな生存戦略を垣間見たような気持ちの悪さに、唾を飲み込んだ。 「まともな家庭じゃないようにして、ルカに辛く当たれば親権はルナにいくって……言われて」    ルカが誘拐されそうになった際に助けてくれたから、リンのことを無条件で信じちゃったんだろう、な。  その信頼関係が一時でもあったのが羨ましい なんて悋気を見せる気はないけれど…… 「それは……リンさんもトーマも、最低なことをしてる」  断じて嫉妬ではない感情で非難する。 「そんなことのためにあんなに小さなルカさ……ルカを傷つける必要はないのに! 幼いから覚えていないとか、関係ないから!」 「……ああ」 「あんな食生活させて、家だって、すごく危ないものも多かった」  幾らおとなしい子とは言っても、何が危険になるかわからないようなゴミ屋敷に一人で放置するなんて…… 「あれは……本意じゃなかった。俺は関わらず、でも最低限の生活がしっかり回るように家政婦を雇ったんだが……しかし、彼女らは気がつけばルカじゃなく俺の世話ばかりしようとして家のことをしなくなるんだ」  忌々しいものを見る目は僕を見ていなかったからほっと胸を撫で下ろす。  トーマは、恋人の欲目を引いてもイケメンだ。  丹精込めて作られた彫像のような顔立ちに柔らかそうな茶色い髪と、何よりもソーダ色の瞳が魅力的で、視線が合うたびに心臓が飛び出そうな衝撃に襲われてしまう。  身長だって高いし、勤め先を考えれば高学歴の高収入だってわかるんだから、近くにいたらワンチャン! 的な邪な考えも浮かんでしまっても仕方がない。

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