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第3話 謁見とかもう少し慎重にできないか
「君の髪は本当に美しい色をしているな……」
そんな歯の浮くような台詞を口にしながら、ライオネルは明るい日差しの差し込む窓辺で櫛を手にしていた。鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌にオレの髪を梳いていて、その輝く美貌には相変わらず陰りひとつない。
女なら幼女から老婆まで虜にしそうな有様だが、残念ながら今ここにいるのはオレ一人だ。
こいつがなにを楽しんでいるのかもさっぱりわからず、完全に置いていかれていた。なんなんだ、この状況は。
この部屋で目覚めてから、すでに四日が経っていた。ずるずると居続けることになったのは不本意なのだが、その間もライオネルは毎日飽きもせずオレの世話を焼いている。
今も、昼食が終わったと思ったらソファまで運ばれ髪を梳かれていた。
オレが大人しくしている理由は、腰まである長い髪が絡まると面倒だからだ。数日前まで血や汚れで固まっていたはずの毛束はライオネルによって丁寧に洗われて、毎日高級そうな香油をつけられ櫛でとかされている。
見たことのない艶まで出て、すっかり磨き上げられてしまった。
今のオレの髪は、黒髪に赤髪が混ざったような妙な色をしていて、長い。十歳から手入れしつつゆっくり伸ばしているので腰まであるんだ。
長髪は正直面倒なんだがこれにはちゃんと理由がある。
ゼファーが言うには、魔術師の髪やヒゲは魔力を溜める役割があるんだとか。できるだけ長く伸ばし、魔力を溜め込んで使う方が良いと、ゼファーは時折オレの髪の手入れもしてくれた。
そうしないと絡まるしごわつくし、下手すれば切らないといけなくなる。
髪に魔力が溜まるなんて眉唾な話じゃないかと最初は思わなくもなかったが、オレはそれが真実だと身をもって知っていた。
もともとオレの髪は黒一色だったのに、ゼファーに魔法を教わってから髪に赤い束が混じるようになったんだ。
魔力が枯渇するまで魔法を使いまくると、黒髪は全部鮮やかな赤に変化してしまう。そしてまた、魔法を使わずにいるとゆっくり赤髪に黒が混じり始め、真っ黒に戻る。
カキアの阿呆が魔力回復を待たず働かせ続けるせいで、オレの髪はしばらく赤色になっていることが多かった。
今はよく休んだおかげで黒髪に赤い筋がいくつか入っているくらいの色合いになっていた。もうそろそろ、魔力も全快だろう。
「この美しい黒が地なのか艶 やかな赤が本物なのか……やはり瞳が黒だから黒か?」
組織から逃げ出した夜は、真っ赤になるほど魔力が枯渇していたわけではなく、珍しく黒みの多い髪になっていたはずだ。それに闇夜のせいもあるだろう、ライオネルはオレの地毛が黒だと思ったようだ。
ここで肯定するほど馬鹿じゃない。赤だと思わせていたほうが、元のオレと重なりにくくなるはずだ。
「無駄口叩くなら触るな」
「ああ、すまない。真面目に梳くからもう少し。もう少しだけ……」
「……」
オレは口をつぐんでため息をついた。
これでも出て行く意志はある。ただ、こっそり出て行こうとするとバージルかライオネルが必ず立ちはだかるんだ。
そして怪我が治っていないからと引き留められ、軽々と持ち上げられてベッドに戻る羽目になる。
身体が万全ではないのは確かだから、一日一回ライオネルのかける『痛みを消す魔法』は助かっている。
まだ全身の包帯と右腕の添え木が外されていないから、魔法も使いにくいし……
しかし、なんで出て行こうとしたのを察知されるんだ? それだけは解せない。オレは魔法を使わない状態でも、本業は一応暗殺者だぞ。
隠密活動に慣れたオレをどうやって見つけているんだこいつらは。
「――ネロ、今日もリボンは私が選んでいいかな」
「好きにしろ」
もうひとつ、困惑していることがある。こうしてライオネルは一日に何度も教えた名前を呼んでくる。
これはもしかしてペットみたいな扱い……ってことだろうか?
初日からしつこく名前を聞かれていたので、ゼファーがつけた『ネロ』という名前を教えてあった。
騎士団に『夜の牙』の内部の名前はバレてないから大丈夫だろう。奴らにとっては『悪党の闇魔術師』が組織にいるという認識でしかないはずだ。
ちなみにこの名前、市井には掃いて捨てるほどいる一般的な名だった。恐らく偽名だと思われているに違いない。
適当な偽名を名乗っておいて呼ばれた時に上手く反応できないとか、そういう違和感をなくすためにコレにした。
親がつけた本名はとっくの昔に記憶の彼方だ。五歳から誰も呼ばなきゃ、まあ忘れてくもんだよな。
とにかく、このベッタリなライオネルを引き剥がしてそろそろ本気で出て行く算段をする頃合いだった。
体力さえ戻れば魔法を使うのも苦じゃない。もう起き上がることはできるし歩行にも問題はなさそうだ。
治癒魔法なんて高価なもん使ってもらってるおかげか、本当に回復が早かった。
出て行けと言われれば明日にでも。
って、そう思い続けての四日なんだよな。情けない。
痛みなんか慣れてるはずが、それが消えるのが心地好くて甘えてしまっている。そんな魔法、なくても生きていけるのに。
そもそも正体不明の居候とか普通の貴族は嫌がるよな? なんでオレはこんな歓待を受けてるんだよ、意味わかんねえ。
「ああ、やはりリボンは銀が似合うな」
ライオネルは出来映えに満足したようにシルクのリボンを撫でた。
オレのうろんな視線にも気づかず、家主の貴族であるライオネルはのんきにオレの髪を撫でている。
朝は気付くと部屋にいるし、食事を毎回この部屋で一緒に取ろうとするし、オレが動けるようになってからは庭の散歩にもついてきていた。
監視のつもりかと身構えたが、気遣うように俺の背を支える様子に悪意は見えなかった。隠し通しているんだとしたら相当な策士だ。
「ネロ、好きな色はないのか?」
「ねぇよ」
「そうか。……これほど美しい髪なら、何色でもいいか」
目を細めたライオネルは勝手にそんなことを呟いて、オレの髪の先をいじり回している。そろそろ離れたいんだが、昼食は終わったばかりだし屋敷の中ではこの部屋以外よく知らないし、家を出ようとすると止められるので何もできることがない。
ライオネルの手から逃げ出す言い訳を考えている間、飽きもせず髪の先はいじられ、ゆらゆらと揺れていた。
しかし良い案を思いつく前に、ドアがノックされバージルが入ってきた。珍しく慌てた様子で、ライオネルにも緊張が走る。
「坊ちゃん……団長から、ご連絡が」
「ああ、今行く」
そう返事をしたライオネルは櫛を片付け、慌ただしく部屋を出て行った。相変わらず騒がしいやつだ。
暇なときバージルに聞いてみたところ、ライオネルはオレより五つ年上だった。つまり今二十三だ。それで副団長ってのは破格の待遇だったんだろうな。まあ、今となっちゃ『元』なんだが。
貴族の地位のせいだとやっかみも多く受けただろうと容易に想像ができる。
しかしそうは言ってもライオネルは民衆人気がすこぶる高い。
なにしろ生まれながらの祝福持ちだ。人気取りのハリボテとしての役割なら十二分に果たせたはず。騎士団が市民からの人気を気にするのかというと、ないよりは仕事が楽、という程度だろうが。
その民衆人気がなぜ衰え知らずかというと、まずライオネルは顔が良くて見栄えがする。それだけでなく人々に公平で優しく、職務にも真面目に取り組んでいることが評価されていた。
オレみたいな悪党にとっては鼻について仕方ないが、街の人々には尊いものに見えるんだそうだ。だから余計にいけ好かないんだが。
『私に騎士団の正装で来いと? ……仕方ないな。バージル、用意を頼む』
『はい。向かう先は王城でよろしいでしょうか?』
『ああ。……彼もそれなりの格好で頼む』
『かしこまりました』
手の上に停滞した黒い煙のようなものから、ライオネルとバージルの声が小さく聞こえてくる。この煙みたいなやつは初級の闇魔法だ。これを対象の影に縫い付けると、その者の周辺の音や風景がこちらで見えるようになる。
闇魔法の中でも最も魔力消費が少なく、盗み聞きにのみ使える変な魔法だった。
ただしこれは距離が遠くなると得られる情報が少なくなるので、なるべく対象と近づいて使う必要がある。今は声だけに絞っているが同じ建物内にいればかなり鮮明に映像も見ることができた。
「ネロ様、すぐにお着替えを。包帯も変えますのでどうぞこちらへ」
「……は?」
さっきまでライオネルの元にいたはずのバージルが、部屋の扉を開け放ってオレに近寄ってきた。慌てて手をギュッと握って黒い煙を隠す。
「急拵えではございますが、完璧に仕上げてみせます」
「……え?」
ギラギラと光るバージルの目は本気だった。思わず数歩退いたが、がっしりと左肩を掴まれてすぐに部屋の外へと誘導される。
そのまま服のたくさんかかったクローゼットのような部屋につれて行かれ、あれこれと服を身体にかけられた。
そして最終的にひらひらした白いシャツにベスト、後ろだけ丈の長い黒のコートにピカピカの靴まで履かされて部屋から送り出された。
ちなみに添え木のついた腕はドレープのきいたシャツだけ着て、上着には袖を通していない。
腫れは引いているとはいえ、顔はまだ治りかけで見苦しいのか、目元や口を残して包帯で巻かれていた。
屋敷の外には馬車が用意されていて、正装に着替えたライオネルが傍で待っていた。
あれは――恐らく式典なんかで着る服なんだろうな。
金糸銀糸のふんだんに使われたモールや刺繍は目を引くし、大きなサファイヤの輝くピンで濃紺のマントを留めている。
それがライオネルの銀髪によく映えていた。他の騎士の正装は見たことがないが、これはライオネルのためにデザインされたのではないかと思うくらいだ。
馬車の前にいたライオネルは、こちらに気付くとパッと顔を上げて微笑んだ。
「うん、とても似合っている。バージルの見立ては間違いないな」
それはお前のほうこそ、と口から出そうになって喉で止めた。
相変わらず見目の良い男で口が滑りそうになった。危ない。媚びるようなことを言って喜ばせる気はまったくないんだ。
トレードマークの白銀の鎧に似た白っぽい詰め襟は、かなり派手な装いだった。そしてライオネル本人の端正な顔立ちや逞しい体躯も、人目を引くし服に負けず派手だ。
気後れして近寄りたくもないので別の馬車に乗せてほしいんだが。
「こうなると他の服装も見たいな。今度ネロ用に新しく服も仕立てよう」
「いらねえ」
「あっ、ネロ! 足元に気をつけて」
馬車に乗る時エスコートされそうになったので手を振り払って先に乗った。
なぜ着飾って馬車に乗せられるのか、意味は分からんがここまできたらどうしようもない。腹はくくった。
こいつ、さっき王城に行くとか言ってなかったか。
ついに牢屋かとも思うが、それで着替える必要はないよな。
えらい人に謁見するから罪人でもそれなりの格好させろってか?
そもそもバレたのかそうでないのか……いや、バレたならライオネルがこんな顔してるはずないか。
オレが誰かわかっていたら、その透き通るようなアイスブルーの瞳を憎悪に塗り替えて掴みかかって来るはずだ。
それがないってことは、違うんだろう。
停まっていた馬車はオレたちが乗り込むとすぐに走り出した。馬が何頭かいたので速度が出る馬車みたいだ。思ったよりも揺れた。
「いきなりすまない。君の手が必要になったんだ。協力を頼みたい」
「協力……?」
「……闇魔法を、使って欲しい」
「ッ!」
ガタッとオレが席を立つと、向かい側に座っていたライオネルはそれを予想していたように組み付いてきた。
ぐぐぐ、と押さえられてまた椅子に座らされ、前にいたライオネルはオレの隣へ腰かけてくる。両腕は相変わらずオレの腕と腰をガッチリと拘束していた。
暴れようとするがびくともしなかった。
今まで、ライオネルはほどほどに逞しい体つきだなと思っていたが、触れてみると服の下の筋肉の厚みが桁違いだ。
正面からぶつかって敵うとは思えない。体格差は歴然で、しかもこっちは片手しか使えない怪我人だ。
暴れたら傷に悪いと思ったのかライオネルは極力オレを動かさないよう、しっかり捕まえていた。
「陛下は!……事情があって闇魔法の使い手を探していた。君にしか頼めないんだ、どうか頼む」
「何でオレが闇魔法を使えると……」
「色だ。魔力には色がついている。それである程度、属性がわかるんだ。魔力の強い者なら誰でも見ることができる」
そういえば、過去にゼファーも見抜いたことだ。
オレが知らないだけで、魔法使い同士では当たり前のことなのかも知れない。オレが『夜の牙』の闇魔術師とバレたわけではない……のか?
「ネロ……」
ライオネルの必死な目が、これ以上暴れないでくれと訴えていた。その瞳には恨みや憎悪などの負の感情は浮かんでいない。
オレだって傷が痛むから無理に暴れたくはなかった。ふっと息を吐いて身体から力を抜いた。
「……わかったから、離せよ」
「逃げないか?」
「逃げない」
そろりと腕の力が弱まったところでオレはライオネルの拘束から抜け出した。こちらがパッと離れたことでライオネルは慌てたように手を伸ばしてくる。
それを片手で制し、空席だった向かい側の席に腰を下ろす。
こいつと横並びで仲良く馬車に乗っていく趣味はない。オレの視線から言いたいことが伝わったのか、大きくため息をついたライオネルは今いる席に座り直した。
「……そんなに嫌わないでくれないか」
思ったよりも憂鬱そうな、弱々しい声だった。ライオネルがそんな声を出すとは。
意外に思い、片眉を上げて相手を見遣る。
輝く美貌の聖騎士サマは、今やしょぼくれた犬みたいな表情で俯いていた。
眼帯をしていない方のアイスブルーの瞳が濡れたように光っていて、ジッとこちらを見つめている。恨めしそうな様子が余計に情けなく見えた。
先ほどまでの色男ぶりとの落差が激しくて思わず吹き出しそうになったが、なんとか堪える。
そのままオレたちは馬車に揺られ、王城へと向かった。
馬車の中ではずっと無表情を貫いていたが、ライオネルの視線は馬車が止まるまでずっとオレに向けられていた。
王城に着くと、明らかに正門ではない方から直接奥の宮に馬車が入って行く。そちらはたぶん皇族の住まいがあるほうだ。政治を行う王城とは、区画が違う。
窓の外の風景を見て顔を引き攣らせるオレに、ライオネルは安心させるように微笑んだ。
「心配しなくていい。陛下は怖いかたではないから」
「……」
そういう心配じゃねぇんだよな。
というのがこいつに伝わるはずがないので、オレは黙ったままでいた。
一般人だって皇帝に謁見するとなったらチビりそうになるくらい緊張するだろうに、オレみたいな悪党は余計に冷や汗ものだ。
そもそも縄をかけられて監獄行きならまだしも、こんなところに連れて来られてるのがおかしいんだよ。
だからって今から縄かけられたいわけじゃないが。
「ここからは歩きだ。大丈夫か? 庭園の奥になるから、抱き上げて運……」
「歩ける」
先に降りて手を差し出してくるライオネルを無視して、オレは馬車から降りた。ここから先は広い庭園が続いているようだ。
屋敷を出たのは、昼を過ぎてからだいぶ経っていた。ここまで来るのに太陽は中天を外れ西の山にかかり始めている。
そうしてライオネルの屋敷までの距離を目算しておいた。王都の外れ……ってところか。中心部ではないな。
「ネロ、せめて手を」
「要らねぇ。さっさと前歩いて案内しろ」
「……」
しゅんとして進むライオネルは、しばらくトボトボとしょぼくれた犬のようになっていたが、庭園の一角に入ると背筋を伸ばした。
ライオネルがきちんと顔を上げて堂々と歩き出せば――あの頃の輝かしい『聖騎士』そのものだった。誰もがその姿に見惚れる、清廉潔白なライオネル・ヴァンフォーレ。
記憶の奥底にしまいこんでいた感情が、刺激される。
「――……」
不意にオレは足を止めた。変に鼓動が跳ねて、懐かしさのような居心地の悪い感情で動悸が乱れる。『元』騎士団とか言いつつ、ちゃっかり王城にはその正装で来る意味が分からない。皇帝の前に出る時の決まりとかか?
ライオネルが肩越しに振り返ったので、遅れないよう再び歩き出す。
酒場の噂ではライオネルと皇帝は仲が悪いとか、一方的に叱責されたりして皇帝がライオネルを嫌ってるとか言われてたが。
個人的な依頼をしてくるくらいだから、噂通りではなさそうだな。
「お待たせしました」
「ああ、ライオネル。よく来てくれた」
庭園を過ぎ、花の蔦が絡んだガゼボにライオネルが近づいていく。
そこには酒や軽食が用意されていて、金髪と黒髪の男が二人、手に杯を持って寛いでいた。
一人はゆったりとした白い長衣に精巧な金刺繍の施された服の男で、もう一人はライオネルとあまり変わらない騎士の正装に身を包んでいる。
おそらく金髪が皇帝レイニール、黒髪が騎士団長のジェラルドだろう。『夜の牙』の書類で見た情報だけは覚えているが、貴族や皇族の長ったらしい名前は流石に記憶していない。
ちなみに髪や目の色など特徴は知っていても、その顔は今日初めて見た。二人とも確か四十路のはずだが、だいぶ若く見えるな。
久しぶりにこんなに歩いたからか、息が少し上がっていた。さすがに病み上がりで、ガゼボに近づく足元が若干おぼつかなくなる。
しかしこんな高貴な野郎共の前で倒れるわけにはいかない。これは悪党の矜持だ。
気を引き締めて姿勢を正した。ここまで歩いてくるのもそれなりに重労働だったが、これからどのくらいの時間立って話さないといけないのか。それか、庭園の土の地面に跪くのか。気が遠くなりそうだった。
「そちらが例の闇魔法の使い手かな。……急に呼び出してすまなかったね。怪我をして大変だったのだろう? 辛いだろうからこちらへ座るといい」
皇帝らしき白い服の男がポンポンと叩いたのは、己の隣にあるクッションだった。さすがのオレも絶句して動けなくなる。
「――は」
「陛下」
口を半開きにしたまま硬直してしまう。オレが無様な声を上げるのと同時に、被せるように騎士団長らしき男が皇帝に声をかけた。
やめろ、と叱責するような言い方だった。ずいぶんと遠慮がないんだなと意外に思う。
それとやはり白いほうが『陛下』でいいのだとわかった。消去法で黒髪が騎士団長だ。
「何故だ。こんな可愛い子をゼフィールが独り占めしていたって? ずるいじゃないか。私も少しくらい可愛がったっていいだろう」
「……陛下」
同じ一言だというのに、騎士団長のその三音には毎回違う意味が込められていそうだった。
オレには『なにふざけたこと抜かしてんだお前は』と聞こえた。だって視線があまりにも馬鹿にした風だからさ。
で、本当にいいのか皇帝相手にこんな調子で?
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