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★第14話
「新しい仕事って? ドラマ?」
「BLって知ってる? いま結構人気のジャンルで同期とかも結構出てるんだ。それで演技の幅を広げるっていう意味でも、出てみようかなって」
「そうなんだ。どんな役なの?」
「うーん、まだ原作を読んだだけだけど、女の子にきゃーきゃー言われる役かな。それで女の子と遊ぶのを楽しんでるって感じの」
「へえ、高校生のころのきみみたいじゃない」
「全然違うよ! 勝手に騒がれてただけで、女の子をとっかえひっかえとかしてないからね!?」
「ふふ、そんなにムキにならなくても」
突然子供っぽくなった楓が可笑しかった。揶揄されたことに気づいた彼が照れ隠すように微笑すると、でもちょっと困ってるんだよねと言う。
「困ってる、って?」
「今までは女の子相手ばかりだったから、男相手にちゃんと演じられるのかなって。まだ顔合わせをしたくらいだけど、この子を相手に演じるのかって思ったら変に緊張しちゃってさ。それで、先輩にお願いがあるんだけど」
「お願い?」
「練習相手になってくれない? 先輩相手なら、上手くできそうな気がして」
「え?」
とんでもないことを言われている自覚はあったが、いまいちなにを言われているのか理解ができなかった。練習相手なんて演技経験ゼロの雪兎に務まるのだろうか。それに森宮 楓ともあろう男が男相手というくらいで不安になるものだろうか。
「俺を練習台にしてどうするんだよ。相手役とは雲泥の差だろ?」
「それはわかってるよ。でも気持ちを作る上では役に立つと思うんだ。俺、先輩のことかわいいと思ってる。だから協力してくれないかなって」
「たとえば、どんな?」
「そうだな。とりあえず、抱き締めてみていい?」
そう問われて言葉に詰まった。じっと返事を待つように真摯に見つめられると、胸の奥が甘く疼く。これ以上は望まないようにと言った田中の言葉が、警告のように脳内に響いた。けれどこれはあくまでも、楓が演技の感覚を掴むための練習なのだ。それに拒んでしまうのは惜しいと思う気持ちがあった。抱き締めてもらえるチャンスなど、最初で最後かもしれない。
勇気を搔き集めて、小さく頷いた。心臓が飛び出しそうなほど期待に高鳴るのがわかる。平常心を心がけようと思っても無理だった。逸る鼓動は緊張しているからだと誤魔化すことができるだろうか。そんな雪兎を見て楓が笑う。そんなに緊張しなくても、と言いながら距離を詰めて、その長い腕が身体に回ってきた。腕の中にすっぽりと収まってしまうと、細身に見える楓が意外とがっちりしていることに気づいた。
「先輩って、思ったより小さいね」
「そんなことはないと思うけど。きみが大きいんじゃない?」
そう返したら、楓が黙り込んだ。雪兎は華奢なほうだが、けして小さいと言うわけではない。楓が長身だから並ぶと小さく見えるだけだ。運動を全くしないので筋肉がない分身体が薄いのかもしれない。
「あの、森宮くん?」
楓を振り解くわけにもいかず、そう呼びかけた。ぎゅっと腕に力が籠るのがわかって、触れあっている部分が熱を持ち始める。鼓動がうるさくて、上手く息ができなかった。どうしようどうしよう、と思っているうちに身体が少し離れた。ほっとしたのも束の間、今度は顔が近づいてくる。
「森宮くんっ、こういうことはすきな相手とじゃないと、」
いくら雪兎が望んでいても、ここまで許してしまうのはいけない気がした。だから心を鬼にしてそう言うのへ、楓は甘い言葉を重ねてくる。
「じゃあ、すきだって言ったら許してくれる?」
極上のお菓子みたいな、甘い声音に心が震えた。その言葉が本心だったらどんなにいいか。きっとそういう科白があるのだろうと思いながら、いまにも唇が触れそうな距離にきつく目を瞑った。すきだと言われなくたって、楓にならなにをされてもいい。それくらい彼のことがすきなのだと思い知る。
待っている時間が永遠にも感じ始めたころ、楓の気配が離れた。目を開けると楓が思いつめた表情で俯いていた。ごめん、と謝るその声は悲痛な響きを孕んでいる。
「どうして謝るの?」
「嘘なんだ」
「うそ?」
「ドラマが決まったのは本当だよ。でも、男をすきになる気持ちがわからないって言うのは嘘。先輩を試したんだ。どこまで許してくれるのか」
ごめんね、ともう一度謝られた。それに謝るのは自分のほうだと言ってやりたくなる。楓の嘘に乗っかって、いい思いをしようとしたのは雪兎も同じなのだ。
「それなら俺も謝らないと」
「どうして?」
「演技の練習なら、きみに触れても許されると思った、から」
弁明する声が尻つぼみになる。じわりと頬に熱が滲むのを感じて思わず俯くと、楓がそっか、と甘い声を零した。うれしそうに笑んだ目に顔を覗き込まれると、心のなかまで見透かされてしまいそうな気持になる。
「きみこそ、どうして嘘なんか吐いたの?」
「先輩に触りたかったから」
その答えに心臓が跳ね上がった。思わず顔を上げると、じっとこちらを見つめている楓と目が合う。
その目の奥に、欲しいと訴えられているような気がした。こればかりはもう、雪兎の自惚れではないと思う。心の奥から彼への気持ちが滲み出て言わずにはいられなかった。
これは雪兎の紛れもない本心だ。
「きみにならなにをされたっていいよ」
「本気で言ってる?」
そう問われる声が、ほんのすこし震えていた。それに力強く頷くと、きつく掻き抱かれたせいで息が詰まる。背に食い込む指の感触から、もう二度と離すまいという彼の強い意志を感じた。その痛みさえいとおしいと思う。
「森宮くん、苦しいよ」
「ごめん、ずっとこうしたかったから」
気持ちを落ち着けるように、楓が深く息を吸うのがわかった。それからすこし力が抜けて、それでも離してはくれないことがうれしい。
「一回逃げられてるから、慎重にならなきゃって思ってたんだ。先輩は俺と一緒にいるとき、周りの目を気にしていたし」
「それはどうしても気になるよ。釣り合ってないって思われたらどうしよう、とか」
「そんなこと気にしなくていいのに」
「だって俺のせいできみのセンスが疑われたらいやだし。職業柄気をつけてはいるけど、どうしても森宮くんの隣は緊張するから」
「先輩はもうちょっと自信持っていいと思うよ。さっきも格好いいって言われていただろ? それに俺にとって、こんなかわいい人はいないんだよ」
「かわいいって、本当に?」
想いが通じ合ったせいか、楓から零れる言葉のすべてが甘い棘を持って雪兎の心を突いた。覗き込んでくる楓の表情はいつもと変わらないのに、その笑みに甘さが増しているように感じる。その唇で愛の言葉を囁かれでもしたら心がとろけてしまうだろう。
「俺を恋人にしてくれる?」
「だれにも祝福されないかもしれないよ?」
「だれになにを言われようと、先輩が俺の恋人でいてくれたらそれでいいよ。男と付き合うことが、俺の足枷になると思ってる?」
そう問われて、言葉に詰まった。楓に想われていることがうれしいのに、心のどこかでは素直に喜べないことを見透かされているような気になった。田中に言われた言葉が、また頭の中を反芻する。
それでも、手放したくはなかった。
「……そうだって言ったら、どうするの?」
「そうならないことを証明する」
「本気で言ってる?」
「もちろん。俺をだれだと思ってるの?」
雪兎の気持ちを軽くするように、わざとらしくおどけてくれる楓を見て、思わず相好を崩していた。楓の掌が頬に触れて、慈しむように撫でられるのがくすぐったい。腰に回ってきた腕に引き寄せられた。キスしていいかと問われて鼓動がひとつ跳ね上がる。
弛んでいた緊張が再び迫り上がってきた。勇気を振り絞って頷くと、楓の表情が笑みにとろける。その唇があやすように口端に触れてから、雪兎の唇に重なった。柔らかな感触が離れると、すぐに強請るように下唇を食まれた。どうしたらいいかわからなくて身体が緊張で強張っていた。それをわかっているくせに楓はやめようとはしてくれない。なにをされてもいいと言った、雪兎の言葉を信じているのだろう。
「ちょっと唇弛めて? ね?」
強請るような甘い声に頭が沸騰しそうだった。おずおずと唇を弛めると、その隙間を埋めるようにおのずとくちづけが深くなっていった。応えようと必死になりながら、楓の服に力なく縋ることしかできない。
唇が離れると荒い息が零れた。くたりと彼の肩に額を預けながら、はじめて知る悦びが腹の奥へと溜まっていくのを感じる。楓に知られるのが恥ずかしくて、思わずすこし身体を離した。それに気づかれたのか、うれしそうに笑った楓の唇が、あやすように頬にくちづけをくれながら、強請るような声を出す。
「もうちょっと触っていい?」
「もうちょっと、?」
それはどういうことなのかわからないうちにソファへと押し倒されていた。楓に見下ろされていることに気づいたときには、その唇が雪兎の眦に落ちていた。頬のラインを擽るように下へと移動して、首筋を柔く食まれる。すこし擽ったくて身を捩ると、いつの間にか服の下に忍んだ掌が肌に触れた。指先で胸を突かれる。
「ぁ……ッ、」
つい零れた声が自分でも驚くくらい甘ったるくて、思わず唇を掌で覆った。服を捲り上げられて胸に落とされた口端が、うれしそうに笑んでいるのが見える。気持ちが置いてけぼりにされたまま、身体の熱だけ上がっていくのが怖い。胸の突起を食まれて舌先で突かれると、なんともいえないもどかしさが腰の方へと下がっていく。そんなところ自分で触れてもなんともないのに、楓が触れているだけで気持ちいいのはなぜだろう。
「そこばっか、ぁッ、」
「いや?」
「男の胸なんかいじったって……ッ、ん、」
面白くないだろうと言いたかったのに上手く言葉にならない。だれかに触れられることすらはじめてなのに甘い刺激が強すぎて、もうどこを触られても気持ちよかった。薄い腹を擽るように撫でられるのに身を捩ると、パンツを脱がされて下着が露になる。布越しでも己の熱がすっかり形を変えているのがありありとわかった。かっと頭が熱くなって、思わずそこを隠そうとする。その手を阻まれて、その形をなぞるように指を動かされると、じわりと蜜が滲んでしまった。
「きもちよかった?」
耳元でそう囁く声に熱が籠っていた。思わず小さく声を上げてしまうのへ、追い打ちをかけるように楓に耳朶を食まれる。真っ赤になって熱いそこの、温度がさらに上がっていく。顎や首筋を唇で擽られるのに、ちいさく甘い声が零れてしまう。
そうしているうちに薄い腹にくちづけを落とされて、へその窪みを舌で突かれた。下着のふくらみを柔く食まれて、思わず甘い声を上げてしまう。いやいやと首を振って、思わず楓の頭を押しのけてしまった。さすがに羞恥心には勝てない。
「ご、ごめん。乱暴にして」
そうしてしまってからはっとして、慌てて謝った。あの森宮 楓の頭を押しのけてしまった罪悪感が募る。楓はなんともないというように笑いながら、恥ずかしかった? と問うてくれた。甘くて優しい声音にちいさく頷きながら、羞恥心のうしろから顔を覗かせる感情にじわりと心を苛まれていく。思わずじっと楓の顔を見つめてしまうと、きれいな形の眼が不思議そうに見つめ返してきた。
「どうかした?」
「え、っと、」
やめたいと言えば、楓はやめてくれるだろう。けれど本音のところはやめてほしくなかった。ただすこし、俄かな恐怖心が顔を覗かせて、心のうちに食指を伸ばしてきただけだ。清廉潔白な顔をした国民的人気俳優の森宮 楓が、男相手に欲情している。その事実がうれしくて、信じられなくて、怖かった。楓の気持ちを疑うような、愚かなことはしたくない。けれどもし、雪兎の身体を目の当たりにして、やめようと言われたら?
そう考えてしまうと、どうしても怖くなってしまった。
雪兎は男にしては華奢なほうだった。身長はいつだって前から数えたほうが早かったし、男としてはすこし身長を気にする高さではある。しかしいくら華奢だとはいえ、身体は薄くて柔らかくない。自分と同じものがついている身体を目の当たりにして、それでも抱こうと思ってもらえるのか。
求めてもらえているのだから、このまま流されてしまえばいいとわかっている。けれどもし、楓の身体が反応を示していなかったらどうする? それを知ってしまったら、きっと一生立ち直れない。
「……ごめん、がっつきすぎちゃったね」
そう謝られるのに、否定するように首を振る。楓のせいじゃないのに、と唇を噛むと、うまく説明できない不甲斐なさにじわりと涙が滲んでしまった。楓がすこし困ったように眉を下げて、雪兎の身体を抱き起してくれる。そのまま間近で目を覗き込まれると、心の底まで見透かされているような気分になった。本当にそうだったのなら、上手く言葉にできないこの気持ちを、伝えることだって容易だっただろう。
されるがままに抱き寄せられると、あやすように背を撫でてくれる手が優しかった。眦を擽るようにくちづけを落とされて、浮いた涙を啜られる。そうされているうちにだんだんと気持ちが落ち着いてきた。大丈夫? と問うてくる優しい声音に、じんわりと心の奥が疼いてしまう。
「落ち着いた?」
「ごめん、森宮くんが悪いわけじゃないのに」
「怖がらせたのは俺だよ。先輩に触っていいんだって思ったら、止まらなくなっちゃって」
そう苦笑う楓に胸が疼いた。彼はいつだってそうだ。雪兎が罪悪感を感じないよう、感情を読んでいつだって悪者になってくれる。
そういう彼だからこそどしようもなく惹かれた。そのしあわせを願って、この恋を押し込めてしまえるほど。
「本当にきみのせいじゃないんだ……ただきみに幻滅されるんじゃないかって怖くなって、」
「幻滅?」
楓の眉が今度は不思議そうに寄る。どうして? と問うような瞳に見つめられると、俄かな緊張に苛まれた。けれどここで黙っていては、この先の発展は見込めない。
いままでの自分なら逃げ出していただろうと思う。けれど楓からは、もう逃げたくなかった。
「俺の身体を見たら我に返るんじゃないかなって……その、思って、」
「俺がやっぱりやめようって言うと思った?」
楓の声音はやさしくて、揶揄するような笑みを含んでいるようにさえ思えた。けれどいまの雪兎には、疑われた寂しさが隠されているように聞こえてしまう。
だから、慌てて弁明した。
「森宮くんの気持ちを疑ってるわけじゃないよ。きみになにされていいと思っていることも本当だし。でも、俺もきみも男だから……その、同じ身体の作りをしているし、」
「じゃあ、確かめてみる?」
「え?」
「俺が先輩でちゃんと興奮するんだって、わかればいいんでしょう?」
そうにやりと笑った楓に手を掴まれた。え? と思っている間に楓のそこへと導かれると、その熱がしっかりと質量を増しているのがわかる。その意味に気づいた刹那、頬に熱が集まった。大丈夫だったでしょう? と覗き込んでくる楓の瞳にギラギラとした光を見た気がした。言葉でわからせるより、身体にわからせたほうが早いと思ったのかもしれない。
再び身体を抱き寄せられたと思ったら、腰のラインを指で擽られた。動けないでいるうちに、彼の指が下着の上から双丘の隙間に忍んでくる。思わず腰が引けるのに、楓が笑う気配がした。それでも、離してくれる気配はない。
「ゃ……そんなとこ……ッ、」
「俺が何度先輩を抱くところを想像したと思う? 妄想の中の先輩がどんな風だったか、教えてあげようか?」
「わかったから、あの、ちょっと離れて、」
つい先程までの雪兎を思いやってくれた楓はすっかり鳴りを潜めていた。離れていいの? と耳元で問われて言葉に詰まった。強請るように耳朶を食まれると、びくりとちいさく肩が震える。楓の指が下着の隙間に忍んで、際どい部分を擽ってくる。やめる気などないくせに、雪兎に言わせようとしているところがずるい。
緊張に震える手で楓の手を掴んだ。その手を自らの熱へと導くと、触って、とどうにか声を絞り出す。羞恥で溶けてなくなりたかった。それでも笑みにとろけた楓の顔を見てしまうと、この男にすべてを明け渡してしまいたくなる。
許可を得た楓に唇を柔く食まれながら、下着の下へと忍んできた楓の指に熱を擽られた。重なる唇の隙間から甘い吐息が零れて、もっとと強請るように彼の唇を甘く噛む。触れられている羞恥はいつの間にか、彼へのいとおしさに塗り替えられていた。時折、意地悪するように突先を軽く引っ掻かれるのがたまらない。
「俺のも触ってくれる?」
そう問われたので頷くと、楓がベルトを弛めてパンツの前を寛げた。下着をずらして露になったそれはすっかり形を変えていて、本当に雪兎に欲情するのだと知れる。じんわりとしたいとおしさが胸に滲み出してきた。それにそっと触れると楓の唇が弧を描く。
楓に腰を抱き寄せられて、彼の大きな掌がふたりの熱を雪兎の掌ごと包み込んだ。直接的な刺激が背筋を駆け上るのに、身体の力が抜けてしまう。その肩に額を預けると、彼の唇に耳朶を食まれて、甘い声にかわいいと囁かれた。それだけなのに、身体の熱がどんどんと上がっていく。
「ふっ、ぁ、ァッ、」
「すぐイっちゃいそうだね?」
揶揄するように突先を抉られると、その刺激に耐えることはできなかった。楓の掌に精を吐き出してしまうと、すっきりしたせいか急に頭が冴えてくる。楓に気持ちよかった? と問われてはっとした。ごめんと謝ると、どうして? と笑った唇に鼻頭を啄まれる。
その擽ったさに、思わず笑ってしまった。
「もう、せっかく謝ってるのに」
「謝ることじゃないよ。身体つらくない?」
「それは大丈夫だけど。あの、俺どうしたらいいかな? はじめてだからその、こういうときどうしたらいいのかわからなくて、」
どうせわかりきっていることだろうけれど、自ら経験がないと明かすのは想像以上に恥ずかしかった。それでも経験値はゼロなのだから、取り繕ったってどうしようもない。そう思って正直にそう言ったら、楓の目が面食らったように丸くなった。それからその表情が笑みに崩れたので、思わずきょとんとしてしまう。
「今日はここで我慢するよ。これ以上は、先輩に無理させちゃいそうだし」
「そうなの?」
「うん。でも次はここに挿入 たい」
ここ? と思った雪兎は、再び双丘の隙間に触れられて彼の言葉の意味を悟った。真っ赤になって固まっていると、楓が後始末をしてくれた。されるがままになりながら、本当にいいのだろうかと思う。だって、下着にしまわれた彼の熱はまだ苦しそうだ。
「あの、本当にしなくていいの?」
「いいの。お楽しみはあとに取っておいた方がいいから」
「でも、」
「じゃあひとつ我儘聞いてくれる?」
「もちろんっ!」
「今日は朝まで一緒にいたい」
いとおしさを孕んだ瞳に見つめられて胸が高らかにときめいていた。すきな相手が同じ気持ちでいてくれることがこんなにもうれしいことをはじめて知る。
「俺も一緒にいて欲しい」
「じゃあ先にシャワー貸りていいかな?」
それとも一緒に入る? と楓が惚けた。雪兎が真っ赤になったままなにも言えずにいると、冗談だよと髪を撫でられて唇を落とされた。恋人同士というのはこんなにも甘いものなのかと思いながら、バスルームへと向かう彼の背を見送った。まだ達していなかった楓がこのあとそこでなにをするのかを想像してしまう自分が浅ましくて、その考えを包みこむようにソファの上で丸くなった。
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