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★第24話

 家に帰るまでの時間が惜しくて、海沿いのホテルをとった。以前楓がロケで訪れたことがあるというホテルは雰囲気がよく、ドラマの撮影でもたびたび使われているのだという。フロント係は楓の顔を見るなり一瞬目を丸くしたが、すぐにダブルの部屋を取ってくれた。平日とあって、部屋の空きがあったのはありがたい。  気を遣ってくれたのか、部屋は最上階だった。広々とした部屋にはダブルサイズのベッドが二台と、大きめのソファが窓に向かっておかれている。大きく取られた窓からは海が一望できた。陽が地平線に落ちていく様子が美しいのに、それを見ている余裕もない。  エレベータに乗ったときから、楓がそわそわとしていることには気づいていた。雪兎もなんだか変に緊張していたし、手がすこし触れただけでも鼓動が跳ねてしまう。あとすこしでふたりきりになれる期待を孕んだまま最上階についた途端、楓に手を引かれて部屋へと連れ込まれた。唇を奪われた刹那に、部屋のドアがばたんと閉まる。  触れ合うだけの、かわいいくちづけでは物足りなかった。だれの目を気にすることもなく、存分に楓に触れることが許されるとあっては、遠慮しているのがもったいない。楓からの甘いくちづけを享受しながら、ずっと触れてほしかったのだと気づいた。もっと触って、身体の奥まで暴いてほしい。  そう、ずっと願っていたのだ、と。 「雪兎さん、抱きたい」  強請るように頬を撫でられながら、熱が籠った声でそう請われた。じっと真摯に見つめられると、言葉が詰まって出てこない。そう想ってくれていることがうれしいのに、緊張のほうが勝っているからか。 「……改まって言われると、恥ずかしいね」  自分の緊張をほぐしたくてそう茶化してしまったら、擽ったそうに笑った楓の唇が瞼へと落ちてきた。手を引かれてベッドへと誘われると、楓に唇を奪わるままシーツへと倒れ込む。甘いくちづけに夢中になっていると、楓の手がシャツの下へと潜り込んできた。薄い腹を擽るように撫でられるのに身を捩って、最後の理性を振り絞る。さすがに汗でべたついているし、このまま楓に抱かれるのは少々気が引けた。 「待って、シャワー浴びたい、」 「じゃあ、一緒に入ろっか?」  強請るような甘い声に、心がぐらりと揺れた。雪兎が戸惑う間を肯定と受け取った楓に、機会を逃すまいと抱き上げられてしまう。突然の浮遊感に身を固くしていると、さっさとバスルームへと連れ込まれてしまった。独立型のユニットバスは男ふたりで入っても充分過ぎる広さだった。  そのまま中へ連れ込まれそうになったので、慌てて脱衣室で降ろしてもらう。あんなに軽々と抱き上げられてしまうなんて思ってもみなかった。鼓動がいまにも弾けそうだ。 「びっくりした、」 「ごめんごめん。でも雪兎さん軽すぎじゃない?」 「嘘だよ。俺だって一応男だよ?」 「じゃあ羽根が生えてるんだね?」  揶揄する甘い声音に胸の奥が疼いた。柔らかな笑みを向けられると反論する言葉を失う。まさかの状況に目を白黒させているうちに、楓が目の前で服を脱ぎ始めてしまった。慌てて視線を逸らしながら、ここで逃げ出したら反則だろうかと逡巡していると、さきに行くね? と笑われた。無理強いしてこないところが楓らしいな、と苦笑いながら、意を決して服を脱ぎ、腰をタオルで隠してから後を追った。  雪兎が脱衣室でぐずぐずとしている間に、楓はシャワーを浴び終えたらしい。溜めている途中の浴槽に浸かり、その縁に組んだ腕に頬を乗せて雪兎に熱い視線を向けてくる。艶めかしい視線に晒されていると肌が焼け焦げそうだった。控えめな明るさとはいえ、証明に照らされるなかで肌を見られているのは恥ずかしい。 「恥ずかしいからそんなに見ないで」 「これからもっと恥ずかしいことするのに?」 「そうだけど!」  それでも恥ずかしいものは恥ずかしいのだと、叫び出したい気持ちをどうにか飲み込んだ。楓と違って雪兎は鍛えているわけではないし、堂々と肌を晒せる自信だってない。それになんだか、なにも身に着けないままでその視線に晒されていると、心許なくて仕方がないのだ。  気にしたら負けだ、と言い聞かせながら、シャワーで身体の汗を流した。さっぱりしていくはずなのに、これから彼に抱かれるのだとわかっている身体は、密かに期待して焦れている。身体が熱いのは風呂場の熱気のせい、というわけではなさそうだった。 「見たって面白くないでしょ」 「すきな子の身体を見ないでって言う方が無理だよ。それに、雪兎さんの身体綺麗だし」  甘い声音が随分と近くで聞こえたと思ったら、すぐうしろに楓が立っていた。鼓動がひとつ跳ねたときには、背中から抱き寄せられていた。薄い腹を撫でられて、そのまま掌が下肢へと下がっていく。タオル越しに長い指でなぞり上げられるのに、つい甘い声が漏れる。 「……ッん、」 「ちょっと硬くなってるね?」 「きみがあんな目で見るから、ッ、」 「だって雪兎さんがあんまり綺麗でかわいいんだもん」  そう甘く囁いた唇に耳朶を食まれた。わざとらしく齧られたあと、舌で擽るように嬲られる。思わず竦めてしまった肩へ、かわいいとくちづけを落とされた。もう片方の彼の手が胸を撫でて、指先で突先を弄られる。突かれたり摘ままれたりしているうちに、甘い悦びが腰に溜まっていった。喉の奥から零れた甘い声が、浴室に反響するのが恥ずかしい。 「そこはだめ……ッ、」 「気持ちよさそうだよ?」  意地悪するような声音さえも、いまの雪兎には甘い刺激にしかならない。気持ちいいからだめなのに、とぼんやりする頭で考えながら、楓の腕の中で悦びに震えることしかできなかった。足に力が入らなくて立っていられない。楓に支えてもらえなかったら、とうに頽れていただろう。  このまま逆上せてしまいそうだった。離れまいと密着する肌の隙間から熱が滲みだす。巧みな彼の指に膨張した熱を撫で上げられると、じわりと蜜が溢れるのがわかった。いつの間にかタオルが床へと落ちて、直接触れられていることに気づく。絶頂へ引き上げられていくうちに、自然と高い声が漏れてしまった。男のくせにこんな声、恥ずかしくて嫌なのに、止まらない。 「ぁ、ぁっ……だめ……だめぇッ、」 「ほんと、かわいい。かわいいよ、雪兎さん」 「ゃ……ぁぅ、もっでちゃ……ぁッ、」  楓の掌に欲を吐き出すと、そのまま身体の力が抜けてずるずると床へとへたり込んだ。楓が腰を支えてくれたものの、彼もそのまま一緒に道連れになる。掬いあげるように唇を食まれて、もっとと強請るように彼の首に腕を回して縋りついた。甘いくちづけに酔いしれているうちに、腰を擽るように撫でていた指が雪兎の双丘の隙間へと忍んでいく。 「雪兎さんの中に挿入(いれ)ていい?」  揶揄するような指先に、後孔の入り口に触れられた。いやだと言われたらすぐにでも、冗談だと引くことができそうな手つきだ。だめ? と熱が浮いた瞳に見つめられると、身体の熱がさらに上がっていくようだった。なにも知らないはずの腹の奥が疼くような気がするのは、長らく待ち望んでいた瞬間がすぐそこまで迫っている期待からだろうか。  ありったけの勇気を搔き集めて首を縦に振った。楓の表情がうれしそうにとろけて、行こうと腕を引っ張り上げられる。脱衣室でおざなりに身体を拭かれたまま、バスタオルにくるまれて軽々と抱え上げられた。そのままベッドへと運ばれるとそのまま優しく押し倒される。  シーツが水を吸って肌に貼りつく。たっぷりとした柔いくちづけのあとで、楓の唇が丁寧に顎のラインや首筋を辿りながら胸へと辿り着いた。丁寧に愛撫するように食まれると、過敏な身体はそれだけで悦ぶ。シーツが擦れる刺激さえ、いまの雪兎には毒だった。

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