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★第25話
不意に楓が腕を伸ばして、ベッドの下におざなりに置かれていた鞄から小さな袋をふたつ取り出した。そのうちのひとつを咥えて封を切る。とろりとした液体が楓の掌に落ちて、その指に絡まるのが見えた。
「それ、なぁに?」
「雪兎さんが痛くないように」
楓がすこし恥ずかしそうに笑う、その顔に胸の奥がきゅんと鳴いた。気遣ってくれるその心がうれしい。
「うまくできなかったら、ごめんね?」
俄かに湧いて出た不安を、その言葉で誤魔化した。楓に大丈夫だと甘やかすように唇を柔く食まれると、その指が雪兎の後孔へと触れてくる。すこしぬるりとする感覚が、なんだか変な感じだった。
「ひ……ッぅ、」
入り口を解すように動かされて、ついおかしな声が漏れてしまう。楓の指に身体のなかを暴かれていくのは、なんともいえない感覚だった。内側の襞を擦り上げられるたびに、鈍い悦びが顔を出しそうなのに、その感覚を掴むことが難しい。
「痛くない?」
「ぅんっ……でもへんなかんじ、ッ、」
未知の感覚に身体がぞわりと粟立って、無意識に腰が震える。楓の指が弛んだ隙間にもう一本捩じ込まれた。なかを広げるように指の股を開かれると、突然顔を出した痛みにびくりとする。楓が慌てたように指を抜こうとするので、その手を阻むように掴んだ。
「抜かないで、」
「でも、」
「ちょっと痛かっただけだから。続けて?」
「本当に大丈夫?」
「うん。はやくひとつになりたい、」
そう口にした途端、身体の奥からじんわりとした熱が生まれた。それに楓も気づいたようで、柔らかくなった内側を指の腹で擦り上げてくる。もう片方の手で萎えていた熱を弄られると、じわじわとした悦びが迫り上がってきた。ぼんやりしていた快楽が突然はっきりと輪郭を持ったので、身体も気持ちも追いつけなかった。なにがなんだかわからないうちに楓の指先にそこを抉られて、ひと際高い声が漏れる。
「ひぁっ……ァッ、」
え? と思っていると、ここが雪兎さんのいいところだよ、と甘い声で教えてくれる。うれしそうに笑った彼に唇を奪われて、夢中になるうちに指が三本に増えていた。いいところを擦り上げられながら、広げるようにばらばらと動かされる。身体の奥がきゅんとして、甘く彼の指先を締めつけるのがわかった。知らず知らずに彼の手で身体が作り変えられていく。
楓のためだけの身体になる。
もう達しそうなのに、うしろだけではいまひとつ刺激が足りなかった。もっと強く前を擦って欲しいのに、楓はあやすような刺激しかくれない。もどかしくて、いやいやするように首を振った。強請るように彼の手に手を伸ばすと、堪らないなぁと笑む顔が艶めかしい。
いじわるしないで、と強請る声が、自分の声ではないように甘く熟れていた。それに耳を塞いでしまいたいのに、そうする余裕がどこにもない。ぐずるように楓の名を呼ぶと、彼の指にいいところを擦り上げられた。思わず腰を浮かせてしまうのに、楓の口端が笑みに吊り上がる。
優しそうな顔をして雪兎を労わってくれるくせに、いざというときに垣間見せる男の顔がときめきを加速させた。不意打ちに熱の突先を親指で抉られて雪兎の背が仰け反る。精を腹の上に吐き出すと、ずるりとうしろから指が抜かれた。息つく暇もなく両太ももを押し上げられると、硬くなった彼の突先に強請るように後孔を擦り上げられる。
「雪兎さん、挿入(いれ)ていい?」
「まって、まだ、」
「ごめん、待てない」
余裕のない楓の顔をはじめて見る。小さなパッケージを噛んで開けるのを目の当たりにして、腹の奥が期待で疼いた。そのまま突先で後孔を押し広げられると、指とは比べ物にならない質量で内側を暴かれた。圧迫感に息が詰まって腹の中が苦しい。耐えるようにシーツを握り締めた手を楓が握りしめてくれた。ゆっくりと腰を進める彼の表情がつらそうに歪んで、苦しいのはふたり同じなのだと知る。
「ごめっ……うまくできな……ッぅ、」
「大丈夫だよ、雪兎さん。もうちょっと力抜ける?」
そう問われても、どうしたらいいのかわからなかった。もういっそのこと力づくでも、奥まで押し込んでほしい。生理的に浮いた涙を楓が唇で掬ってくれた。雪兎の気をそらすように甘いくちづけをくれながら、すっかり萎えた前を弄ってくれる。
そうされているうちに少しずつ内側が彼の存在に馴染んできた。解すように動く彼の熱が、次第に奥へと捩じ込まれていくのがわかった。段々と悦びが顔を出してきて頭の芯がしびれてくる。彼の突先に先程知ったばかりのいいところを擦り上げられて、一気に奥が開くのがわかる。
思わず高い声が漏れた。楓に奥を突き上げられて目の前がチカチカする。奥が甘く彼の熱を締めつけているのがわかる。腰を掴まれて律動を繰り返されていると、身体がすっかり彼のことを受け入れたのを感じた。悦びがどっと押し寄せてきて、楓がくれる刺激のすべてに身体が反応を示す。自分の身体が自分の意思を離れて勝手に昂っていくのが怖い。
きもちいい? と甘い声音で問われて、ただただ首を縦に振ることしかできなかった。口を開いても甘い喘ぎを零すことしかできない。
楓の背に腕を回してしがみつくと、彼の突先に何度もいいところを擦り上げられた。身体の奥を貪られるたび、湧き上がる悦びに溺れそうになる。自分の身体がこんなにも、はしたなくできているなんて信じられない。それでもやめてほしくなかった。楓に求められているしあわせが迫り上がって、いまにもはじけ飛びそうだった。
楓が達するまでの間に、何度達したかわからない。どこもかしこも気持ちよくて、身体が昂り続けている。楓の熱が奥で爆ぜるのに、また軽く達していた。ずるりと身体から出ていく感覚さえ、身体が過敏に拾う。もう彼はなかにいないのに、まだ入っているような感覚が残っていた。
楓に抱き寄せられて、唇で甘い余韻を味わう。身体中が甘い怠さに侵されて動くのが酷く億劫だった。それでも、もそもそとどうにか動いて、隣に横たわる楓の肩口に頬を寄せる。擽るように腰を抱かれるのに、つい甘い声が零れた。まだ過敏な身体は、微かな刺激にさえも弱いのだ。
「楓くん、だめだってば、」
わざとらしく擽られるのに身を捩れば、楓が揶揄するようににやりとする。いたずらに肩口や頬に唇を落とされるのに声を上げて笑う。己の笑い声に、幸福がとろけだしているようだった。
「身体つらくない?」
「平気だよ。ちょっとだるいけど」
「あとでまた一緒にお風呂入ろうか」
頬を撫でながらそう言う、楓の笑みは極上のお菓子みたいだった。それに笑みを返しながら、ふと、楓はほかのだれかとこういう時間を過ごしてきたのだろうかと思った。嫉妬心を抱いたわけではない。ただなんとなく、手慣れていたなぁと思ってしまったのだ。
森宮 楓がまさかはじめてということはあるまい。あれだけ女の子に人気があった楓のことだから、恋人がいないほうがおかしい。それになんだか、雪兎ばかりがはじめてなのは悔しくなってきた。雪兎だってひとつくらい、楓のはじめてが欲しい。
「ねぇ、きみのはじめてって、なにかないの?」
「どうしたの? 急に」
「俺は全部はじめてなのにずるいなって。だから、なにかないのかなって」
つい拗ねた声音になってしまった。楓の様子を窺うと、きょとんとしていた彼の表情が段々と意味を理解したように笑みに崩れていく。かわいいなぁと零れる言葉とともに、抱き寄せられる腕に力が籠った。ぎゅうぎゅうと締めつけられるのに、笑い声が零れる。
「雪兎さん、俺のはじめてが欲しいんだ?」
「俺ばっかりはじめてなのが悔しいんだよ」
「じゃあとっておきのをあげる」
「とっておき?」
「雪兎さんは俺の初恋なんだ。それと俺もはじめてだよ」
「うん?」
「本当にすきな人を抱くのははじめて」
その言葉に、どうしようもなく胸が震えた。泣きたい気持ちを誤魔化すように手慣れているくせにと唇を尖らせると、頬を笑みに弛ませた楓に唇を啄まれた。
「ずっと妄想してたんだよ。俺がどれだけ雪兎さんのことがすきか、知ってるでしょ?」
じんわりといとおしさが滲む、その声音が胸の奥を甘く疼かせる。優しく髪を撫でられる心地よさを感じながら、雪兎は柔らかな眠りへと落ちていった。
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