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第3話 若気の至りと現実

 今日は来月開かれるメンズコレクションの打ち合わせ。今年で7年目になる、かなり大きめのショーだ。  去年はそれほど話題にならなかったが、今年はマスコミ注目の新人モデルとアイドルが出演するので、関係者一同気合いが入っていた。  樹の仕事はモデル。主にメンズ雑誌のモデルをしているが、日本で開かれる殆どのファッションショーにも出演している。  この仕事を始めたのは16歳の時。東京に遊びに来た時にスカウトされた。去年ぐらいまでは、女性誌からもお呼びがかかるくらいの人気モデルで寝る暇もないほど忙しかった。  ところが最近は、どんどん時間に余裕が出てきた。 *** 「樹、ちょっといいか?」  打ち合わせの後、マネージャーの西岡に呼び止められた。 「来月、大丈夫そうか?」 「ええ。去年とあまり変わってませんから」 「そうか…ところで、おまえさ…将来どうする気だ?」 「どうするって…」 「童顔だから、この路線でせいぜい30まではいけるとしても…おまえの顔だと、スーツを渋く着こなすのは難しそうだから…」 「役者は無理ですよ」 「わかってる。タレントも嫌なんだろう?」 「嫌っていうか、向いてないと思います」  カメラの前ならいつでも笑顔を作れる樹。でもカメラのない場所で愛想笑いはできない。 「だな…だからさ、ゲイポルノはどうかと思ったんだけど」 「はい?」 「色々調べてみたんだけどさ、最近イケメンのゲイムービーが流行ってて、おまえにもってこいかなって…」 「はあ…」 「とりあえず写真から始めてみて、反応がよかったらそっちに移行ってどう?」 「今からですか?」 「いや、賞味期限が残ってるうちに行き先を考えておいた方がいいと思って。最近、若い連中がどんどんデビューしてるだろう。しかもハーフとか、まんまガイジンとか、顔にも背にも恵まれたヤツらが多いから、おまえも考えといた方がいいと思ってさ」 「ありがとうございます。考えてみます」 「俺も他に何かないか、気にして見とくから」 「はい。お疲れ様でした」  わかっていたけど…現実として突きつけられると、想像よりも衝撃が強い。 ―もう26だもんな…この世界じゃオッサンだよな…  30歳を過ぎて現役モデルで生計を立てている人はもちろんいる。でもそれはほんの一握りで、自分とは違い渋みのある風貌の人が殆どだ。  自分は海外の舞台に立つには身長が足りない。タレントに転向するには、それこそ才能(タレント)がない。かと言って、26歳で職歴モデル、高卒で専門技術なしでは、カタギな商売に転職は難しい。  だからゲイであることを公言している自分にと、西岡が知恵を絞ってくれたんだろう。  ―だけどな…と、樹はガラにもなく若かりし頃の自分を恨んだ。  モデルをやると言った時、将来を考えろと親に反対された。さらに若気の至りで地元の高校を中退して上京しようとした樹を説得し、渡辺が転校先の高校を探してくれた。それがなければ高校さえ卒業していなかった。  転校先でも成績のよかった樹は高3の時、もったいないから理数系の学部に進学しろと担任に勧められた。だけど自分は仕事のことで頭がいっぱいだった。  もしあのまま工学部とかに行っていれば、こんなことにならなかったかもしれない。  16歳の自分には、10年後のこの状況を想像するのは不可能に近かった。 *** 「どうした?」  憂鬱な気分で食事をする樹に渡辺が声をかけた。 「モデルの賞味期限切れが近いんだ」 「歳を取って続けている人もいるだろう?」 「そんなのひと握りだよ。それに僕は渋いタイプじゃないし」 「まあ、若いうちが華って職業だよな」 「だからゲイポルノは、どうかって言われた」  西岡との会話を思い出しながら、不服そうな樹がぼそぼそと答える。 「…それってAVみたいなのだろう?」 「そうだと思う。実は見たことないんだけど」 「樹の裸を全国の人が見ることになるんだろう?」 「全国は言いすぎだけど…」 「まだ26歳だ。もっと違う方向でも考えてみろ。需要がある職業なら今から資格を取ってもやっていけるし、ワーホリやインターンで海外に行くという手もある」 「そうだね。まだ期限が残ってるから、もっと考えてみる」 「視野を広げてな」  渡辺に不安をぶつけ、憂鬱な雲が晴れた樹は夕食後さっそくタブレットを開いた。

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