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第8話 それなら…当たって砕けよう

「この前は、すみませんでした」 「いや、いや。ちょっと驚いたけど、今日じゃなくてよかったよ。今日は若い女性向けの雑誌だから、爽やかに元気に頼んだよ」 「はい」  悩んではいたけど、あれから3日間太らない程度に栄養のあるものを食べ、エステにも行った。そのせいかメイクのノリもよく、楽しく撮影を終えることができた。 「あと10年はいけるかもな」 「また、それですか…」 「それはそうと、この前の話、伊藤がヌードを撮りたいって言ってんだけど、どうする?」 「全裸ですか?」 「そうなんだ。肝心なところは隠すって言ってるけど…」  モデルとしての賞味期限が完全に終わったわけではない。しかも賞味期限であって消費期限ではない。  できれば消費期限ぎりぎりまで仕事をしていたい。それならこの時点で舵を切るのは早すぎるのではと樹は考えた。 「今それを撮って、こっちにいられなくなる可能性はないんですか?」 「樹が有名タレントなら問題になるだろうけど…そこまでチェックしてる人いないと思うけど?」 「この業界でも?」 「そうか…見てる人いるかもな…」 「10年は無理にしても、あと5年はやりたいんで…もう少し待ってもらえませんか?」 「ただ、あっちも少しでも若いうちにと思ってるんだよ。写真だけだし…アートとしてのメンズヌードって方向でいくらしいから、いいんじゃないかな?」 「そうですか…考えてみます」 「来週までに頼むよ」 「わかりました」  ―じっくり考えたくても周りは待ってくれない。それなら…当たって砕けよう。  決心した樹は渡辺が休みの日の朝、思い切って切り出した。 「僕…今でも渡辺さんに何でも話していいんだよね?」 「ああ」  初めて関係を持って以降、距離をとって樹の隣に座るようになった渡辺が、うつむいたまま答えた。 「まず、仕事の話なんだけど…ヌード写真撮らないかって言われてて…」 「全裸でか?」 「うん。アートとしてのメンズヌードって言ってるけど…いずれゲイポルノにって言われてて、どうしようか悩んでるんだ」 「写真だけ?」 「今のところは」  渡辺は何か考え込んでいるようだった。  眉間にしわを寄せる渡辺に、樹は不安になりながらも言葉を待った。  数分の沈黙が過ぎ、鋭い目で樹を捉えた渡辺が口を開く。 「ここで俺が撮ってやる」 「え?」 「実際にやってみれば、全裸の写真を撮られるのがどういう気分かわかるだろう」  樹の返事も聞かず、おもむろに立ち上がった渡辺が無言でセッティングを始めた。  それから30分、樹の手を借りてリビングがスタジオに変わった。 「今は照明がこれしかないが、実際はもっと明るいと思った方がいい」  撮影用の照明を点け、渡辺がカメラを構える。 「脱ぐところから撮るから」  上半身裸で撮影をしたことはある。シャツを脱ぎかけるところを撮ったこともある。だけどカメラの前で部屋着を脱ぐのは初めてだった。  お風呂に入るかのようにTシャツを脱ぎ始めた樹に、少し厳しい声で渡辺が言った。 「ただ脱いでどうする。ストリップするみたいに脱がないと」 「ス、ストリップなんか見たことないよ」 「誘うんだよ。俺を誘ってみろ」  ―渡辺さんを誘う…どうやって?…もし僕が誘ったら…渡辺さんは…  あの夜の感覚を思い出し樹の体が熱くなってきた。 「その気にさせたら…抱いてくれるんだね」 「え?」  レンズ越しに見た樹の目の色が変わった。

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