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第9話 満たされる
潤んだ瞳で上目遣いに渡辺を見ながら、Tシャツ越しに自分の肌をなでる。そして後ろを向いて、腰をくねらせながらスウェットパンツをゆっくりと下着ごと降ろした。
肩越しに熱っぽい視線を送りTシャツを脱ぐ。上半身を自分で抱きしめ体をねじる。
情欲のこもった瞳で渡辺を見つめる樹。ポーズを変えても決してカメラから目を離さない。うっすらと開いた唇から赤い舌が見える。
写真を撮るといったのは自分なのに、たまらくなった渡辺は思わずレンズから目を離した。
「あっ…」
渡辺と直接目が合った途端、樹が固まった。そして首から顔まで真っ赤に染まった。
「樹?」
大きく開かれた目からポロポロと涙が落ちた。
「来ないで!」
駆け寄ろうとする渡辺を制した樹は、膝を抱えて座り込んでしまった。
カメラの前ではいくらでも大胆になれる。無口なイケメンにも、さわやかな若者にも、なれと言われれば男娼にだってなれる。だから渡辺をその気にさせようと思った。渡辺を欲する自分がレンズ越しに伝わればと思った。
だけど、それは“レンズ越し”にだ。
渡辺に浅ましい姿を見せてしまった。裸を見られるだけでも恥ずかしいのに。男を誘う自分を見られてしまった。
―このまま死んでしまいたい。
樹は恥ずかしさと絶望で震える自分を抱きしめて泣いた。
「樹…」
近寄ってくる渡辺に気づいた樹が顔を上げる。
「来ないで…僕を見ないで…」
「…樹…」
足の間に樹を挟みこむように座った渡辺が、震える樹をギュッと抱きしめた。樹は抱えていた膝を離し、ゆっくりと渡辺の背中に腕をまわした。
しばらく抱き合った後、体を離し見つめ合う。揺れる瞳は自分を求めてくれている。そう感じた渡辺が唇を樹のそれに重ねた。
リップ音と時々漏れる樹の吐息だけがリビングに響く。
ついばむような口づけの後、樹の目を真っ直ぐに見ながら、渡辺がはっきりとした強い口調で言った。
「樹が好きだ」
その言葉に、樹は心臓が止まったかと思った。そしてドクドクと激しく脈打つ。
衝撃で言葉を失った樹の髪を優しくなで、渡辺がつぶやいた。
「ずっと好きだった。だから樹を傷つけたくなかった。それなのに…心を乱すようなことをして、すまなかった」
自分の背中から腕を解いた渡辺の手首を、樹はありったけの力を込めてつかんだ。
―離したくない。渡辺さんを離したくない…
「樹が愛されて抱かれたいと言ったから。自分を好きで欲してくれる人に抱かれたいと言ったから。それは俺だと思った。俺しかいないと思った。誰よりも樹を愛していて、誰よりも樹を欲しているから。…だから…誓いを破ってしまった」
瞳を伏せ眉根を寄せた渡辺が、感情が高ぶらないよう必死で自分を抑え淡々と言葉をつむぐ。
―渡辺さんが僕を愛してる?渡辺さんが僕を抱きたいって思ってた?そんなはずがない。これは夢だ。最近、混乱してるから都合のいい夢を見てるんだ…
樹が自分にそう言い聞かせていると、渡辺が立ち上がった。
「すまない。こんなにおまえを悩ませてしまった。ここまで傷つけていたとは知らなかった」
渡辺の手首を握っていた手をほどかれ、樹はハッと我に返った。
「違うよ!」
ここではっきり言わなければ。恥ずかしくても整理しきれていなくても、自分の気持ちを全て話さなければ。誤解したままの渡辺が自分から離れていってしまう。そう思った樹は必死で言葉を探した。
「傷ついてない。嫌な思いもしてしてない。渡辺さんに抱かれて幸せだった。初めて満ち足りた気持ちになった。だけど…恥ずかしくて、大好きな渡辺さんに、醜い姿を見られたのが恥ずかしくて…誤解させてたらごめんなさい」
自分が渡辺に抱く気持ちは恋なのか、ただ慕っているだけなのか、それはまだはっきりとわからない。だけど抱かれて嬉しかったことだけは、はっきりしている。
「心を乱したって言うけど…確かに乱されたけど、それは渡辺さんが僕をどう思ってるのか、僕が渡辺さんをどう思ってるのか、はっきりしてなかったから…本当は…もっと抱いて欲しかった。けど、そんなこと言ったら嫌われると思って言えなかった。恥ずかしいけど…本当は…何度も抱いて欲しかった…」
「樹…」
肩を震わせながら必死で言葉を続ける樹を、渡辺がそっと抱きしめた。
「好きだ…樹…」
樹は渡辺の背中に手をまわし、今はっきりしている気持ちだけを伝えた。
「僕…渡辺さんに…抱かれたい…」
息をのんだ渡辺が大きな手で樹の頬を包み、しっかりと目を見つめる。
「僕も…渡辺さんが好き…」
見開かれた渡辺の目から涙がこぼれ落ちた。
明るい照明の下で、二人は激しく互いを貪り合った。
渡辺はただ樹の全てを奪いたかった。もう誰のところへも行けないように。樹の全てを永遠に自分のものにするために。
樹は自分を好きだと言ってくれる渡辺を感じたくて必死だった。恥ずかしいと思っている余裕はなかった。
舌を求め合い、唇をしゃぶり合う。噛み付くように互いの肌を吸う。そして熱くなった互いのものをつかんで、夢中でこすり上げた。
「はぁ…わた…さん…あぁ…イク…」
樹の切ない声に渡辺が体を離した。そして互いのものが目の前に来るよう体の向きを変える。渡辺は、すでに湿った樹のものを唇でこすりあげた。樹も、憑りつかれたように渡辺のものを咥えた。
互いの口の中に熱を放った後、渡辺が樹の双丘の間に顔をうずめた。縮こまった場所を舐められ、舌で内壁を刺激されながらも、樹は渡辺のものを口から離さなかった。指で一番感じる場所を刺激され、樹の体がのけぞる。指を増やされるにつれ、樹の口から愛しいものが離れ、喘ぎ声だけが大きくなる。
渡辺が樹の体から離れた。樹は全てを奪われたような感覚を覚え、フラフラと上体を起こし、棚へ向かおうとする渡辺の腕をつかんだ。
「そのまま…挿れて。そのまま…」
早く肌を合わせたくて、樹は乱れる息を抑えてそう言った。それを聞き、目を見開いた渡辺が飛びつくように荒っぽく樹を抱きしめた。
渡辺は樹の呼吸までも奪うかように向きを変えて何度も唇を貪り、そのまま首筋から、鎖骨、脇へと舌を這わせた。胸の突起を舐められながら、再び芯を持ち始めたものを大きな手で扱かれ、樹は朦朧としながらも渡辺を目で追った。自分を愛して愛撫するのが、渡辺であると確認し続けたくて。
渡辺が樹の足を大きく開き、そのまま持ち上げる。樹は早く欲しくて自ら膝の裏に手をあて、さらに大きく足を開いた。
「早く…欲しい…」
理性など今の樹には必要なかった。ただ渡辺だけが欲しかった。
熱のこもったささやきに、渡辺は一気に屹立を突き刺した。
「あぁっ!」
奥まで満たされた樹の体が反り返る。渡辺はそのまま貫くように何度も突き上げた。
激しい挿抜に体を翻弄されながらも、樹は渡辺を離しまいと夢中でしがみついた。
内壁をこすり上げる熱に、体も頭もドロドロに溶けてしまいそうだった。
―このまま溶けて渡辺さんに混じりこみたい…
朦朧とする意識の中で、樹は最後にそう願った。
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