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嫉妬と男色〈3〉
ひょっとして柊二さんは、ここで朝まで椅子に座って、俺とスマホを見ているんだろうか…有り得る。
「あの…柊二さん。俺はもう大丈夫ですよ。だから柊二さんも自分の部屋で休んでください」
「そういう訳にもいかないんだよ。いいから俺のことは気にするな。さっさと寝ろ」
気にするなって言われても無理だ。俺は考えた。椅子に座って見られるより、横で寝られる方がまだ視線は外せる。
「あの…柊二さん」
「だから何だ。水か?小便?か」
「いえ、そうじゃなくて…このベッドって結構大きいから、柊二さんも隣で寝られますよね」
柊二さんは黙って俺の顔を見た。少しニヤついたように見えたのは錯覚か?
「お前がいいって言うならそうする」
柊二さんはその場でシャツを脱いだ。
えっ…裸になるのか?それにしても柊二さんの上半身は想像以上だった。この筋肉だったら、俺なんて簡単に持ち上げられるよな。俺の視線に柊二さんは気づいた。
「俺はいつも裸で寝てるんだ。今日はパンツくらいは穿いておいてやる」
脱いだシャツを椅子に掛けようと柊二さんは後ろを向いた。その背中には袈裟懸けのような大きな創があった。俺は思わず息を呑んだ。
柊二さんは掛け布団を捲り、ベッドの上で膝立ちをすると俺の首と太ももの下辺りに手を突っ込んで滑らすように俺の体を奥へ動かした。そして柊二さんは仰向けで寝ると思っていたら、横向きになって肘を突くと、ハッキリとわかるニヤけた顔を俺に向けた。
「お前さぁ、童貞だろ」
…ったく何を根拠に。まさかさっきトイレで見たからわかるって言うのか?だいたい何でそんなことを訊くんだ。男の生理として自分で出すことはあっても性交なんて全く興味もない。俺は口への字にして柊二さんを睨んだ。
「ひょっとして、そのひん曲げた唇も初めてだったのか?」
センシティブなことをズケズケと訊かれるのは気分が悪いが、それよりも楽しそうに揶揄われる方がもっと腹立たしい。俺は顔だけ動かしてそっぽを向いた。
「悪かったなぁ。初めてのキスの相手がこんなオッサンで」
「ち…違いますよ…さっきのはキスとかじゃなくて、人命救助ですっ」
慌てて喋ると、頬の辺りが痛い。
ものは言いようだな、と言って柊二さんは笑った。こんなことなら、隣に寝ませんか、なんて言うんじゃなかった。俺の困惑なんてお構い無しに、柊二さんは本当に楽しそうだ。
「じゃあ、教えてやるよ…キスってやつを」
柊二さんは、俺が動けないのをいいことに、俺の頬を撫でて自分の方に俺の顔を向けると唇を重ねた。俺の下唇を軽く吸い込んだ後、下顎を喉元の方に押さえ俺の口を開けると舌を突っ込んできた。
キスって唇を合わせることじゃないのか?生暖かくて柔らかいものが、俺の口の中を掻き回す。これは口腔内蹂躙だ。柊二さんはなかなか唇を離さない。俺は、もうキスは分かったから、と心の中で思っていると、ようやく舌を引っ込めて俺の下唇の吸い込みを止めた。
「どうだ?」
柊二さんは、ニヤついた顔で俺をじっと見ている。俺が何か言うまで見ているつもりだ。
でも、どう、って…どう、答えればいいんだ。
良かったです、とでも言ってほしいんだろうか。ドキドキすらしないのに。
「想像と違ってました」
「そうか…俺は想像通りだったよ」
何だろう、急に柊二さんの声のトーンが下がった。
「何かあったらすぐに起こせよ」
柊二さんはそう言うと、あっさりと俺に背中を向けた。柊二さんの背中の創が目の前にある。傷を負った自分自身もそうだが、改めて俺はヤクザの世界に足を踏み入れたことを実感する。
俺はこの先どうなるのか…これを機に柊二さんはまた俺に迫ってくるのだろうか。もし、迫られたらどうしたらいい…?
ヤクザにファーストキスを奪われても、今の俺は特に何の感情も湧かなかった。
考えても仕方がない。とりあえず寝ることに努めよう。
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