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愛〈2〉

「研一。少し、いいか?」  夜更け、柊二さんが俺の部屋に来た。 「あっ…はい」  柊二さんがこの時間に来るのは初めてのことだ。  俺は慌ててベッドから起き上がった。扉を開けた柊二さんは優しい顔で、少しだけ戸惑っている俺の様子を見ている。  今日、俺は柊二さんに、愛してやる、と言われた。そして俺もずっと傍にいたいって柊二さんの気持ちに応えた。  子供じゃないんだから言葉だけではない。たぶん、今から俺は肉体的にも柊二さんの愛を受けるんだ。その覚悟というか心積りはある。俺も柊二さんのことが… 「お前…勘違いするな。別にセックスをしにきたわけじゃない」  柊二さんは、俺の心の内を見透かしていた。俺は顔が熱くなるのを感じた。 「真っ赤な顔して…可愛いな、お前は」  柊二さんはベッドに近寄ると俺の隣りに腰掛けて、俺の肩を抱いた。 「お前への気持ちを伝えたが、伝えただけといのもどうなんだって考えてな…俺自信のことを少し話しておこうと思う」  俺はセックスをすると思っていたことが恥ずかしくて、まだ柊二さんの顔を見ることができなかった。 「お前は十五で家を出たが、俺は十八だった。地元の高校を卒業して、何をするわけでもなくブラブラしていた。それを思うと本当にお前はしっかりしてるよ」 「俺はただ逃げたかっただけなんです。でも逃げたから、俺は柊二さんと出会えた」  人生なんて本当に想像以上のことが起きる。今の俺はヤクザの若頭と毎日キスをして幸せに暮らしているんだから。 「俺は地元で有名なワルでな、毎日喧嘩ばっかしてたよ。親父は早くに死んで、じいさんばあさんとお袋に育てられた。うちの墓がある寺の奥さんとお袋が幼馴染みでな、俺のことでよく相談にのってもらってたみたいだ。で、そこの住職によく怒られた。墓の後に立ててある木の板みたいなのあるだろ?そうだ、塔婆だ。あれでな、いい加減、真っ当な人間になれ、って殴りかかってくるんだぞ、バチ当たりなあのクソ住職」  柊二さんは、鼻に皺を寄せた。唯一その住職さんには頭が上がらなかったのかもしれない。  そのお寺は、このマンションからそう遠くもないところにあるそうだが、家を出てからは一度も行ってないそうだ。お寺の名前も、姫という漢字が付いてたような気がする、と渋い顔をして言った。 「それから、オヤジと出会って山東会で面倒みてやるって言われてヤクザになった。オヤジからは、腕っぷしが強いだけじゃあこれからのヤクザはやっていけねぇ、世の中それほど甘くはねぇんだ、って言われた。顔と下半身を使って女に貢がせるか、頭を使うかどちらかだってな。女を食いものにするのも気が乗らねえし、結局、今のコンサル会社を立ち上げたんだ」  柊二さんは、笑いながら俺の髪を撫でた。  真っ当な案件を取り扱っているとも思えないが、それでも柊二さんは社長としてやってきたんだ。大勢の組員やその家族を食べさせるために。 「俺はな、研一。お袋はいつも悲しそうな顔をしていた。当然といえば当然なんだが。お袋の葬式にも俺は出なかった。出られなかったんだ。どの面さげて行けばいいんだって話だ。今も悲しんでいる顔しか俺は思い出せない」  そして柊二さんのお姉さんが喪主となって葬儀をされたそうだ。柊二さんは後に葬儀代としてお姉さんにまとまった額の現金を送ったそうだ。お姉さんは最初は受け取りを断ったそうだ。でも押し付けるような形でなんとか受け取ってもらったが未だに疎遠らしい。  だからなのか……柊二さんは嫌がる俺を病院に行かせようとしたのは、灰になる前に顔を見ておくように言ったのは、自分の過去の過ちからなんだ。 「研一…俺のこと…好きか?」  柊二さんは、ほんの少しの照れと不安を混ぜたような声で訊いた。 「はい……大好きです」  柊二さんは、大好きか、と俺の言葉を繰り返すと、クスッと笑った。そして俺の肩を抱いている手に少し力を入れた。俺は立ち上がった。そして柊二さんに向い合うと柊二さんの膝の上に跨がるように座った。そして、柊二さんの首に腕を回して逞しい胸に俺の薄い胸を密着させた。  柊二さんも俺の背中に手を回した。 「どうした、急に」  俺の柊二さんへの想いはもう大好きだけじゃ言い足りない…でも、でも柊二さんへの想いが俺の中で膨らみ過ぎて、上手く言葉にできない。 「こうして胸と胸を合わせたら、俺の気持ちが全部柊二さんの胸の中に届くといいのに…」  心から好きだと思える人と出逢えた。そしてその人に気持ちを伝えたいと思えた。ほんの数年前の俺からすれば考えられないことだ。自分勝手で意地悪で拗らせ屋で、でもいつも俺のことを一番に考えてくれる。俺のことを心から大切に思ってくれる。俺の心は次第に昂り始め、いつの間にか俺は涙を流していた。 「研一…届いたよ。お前の気持ち、ちゃんと受け取った」  柊二さんは俺の頬に触れた。そして俺の涙に唇を寄せて優しく吸った。その瞬間、俺の感情は振り切った。俺は柊二さんをベッドに押し倒した。 「おいおい…何、積極的になってるんだ?」 「俺の気持ち、受け取ってくれたんでしょ?ねぇ…柊二さん。だったら…ねぇ」  俺は柊二さんの唇に自分のを押し当てるようにキスをした。俺は柊二さんを求めた。 「研一…お前…」  柊二さんもそれに応えてくれるみたいだ。柊二さんは俺と体を入れ替えて俺に覆い被さった。もどかしそうに俺のパジャマのボタンを一つ一つ外した。そしてはだけた俺の胸を手のひらでゆっくりと撫で上げ、舌を這わせた。俺の二の腕辺りをベッドに押し付けると尖らせた舌先で胸の突起を突いた。俺はあり得ないくらい敏感になっていた。思わず声が出そうになった。 「研一…今日は感じるんだな、俺のこと」 「なんか…そうみたい…です」 「今日こそ、お前は俺のものだっていう印をつけてやるからな」  柊二さんは着ている物を荒々しく脱いで裸になった。満足そうに熱い息を漏らしながら、俺の首筋や肩、そして乳首を強く吸い上げた。たまに抓られたような痛みを感じながら、俺は、もっと強く、と望んでいる。  柊二さんの熱い吐息や力強い肌撫でのその感触は俺の股間へまっしぐらに信号を送った。俺は今まさに柊二さんを性的に感じていた。熱い血潮が俺の身体の一箇所を怒張させている。柊二さんは、パジャマの上からでもはっきりとわかる俺の屹立を愛おしそうに撫でると、一気に下着諸共脱がせた。 「待たせやがって…お前は」  今日はただ握るだけじゃなかった。  握っているその手のひらは俺のモノをゆっくり締め付けて、捏ねるように動かし始めた。  柊二さんの手の中で益々硬くなっていく自分が、どうにも恥ずかしくて、俺は目を合わせられなかった。柊二さんの唇を見ながら、何度も何度も柊二さんの名前を呼んだ。  柊二さんは俺のモノを扱きながら、俺の喘ぎ声の様な、柊二さん、と呼ぶ声に応えるように、お前は俺のものだ、とか、ずっと傍にいてやるからな、って囁いてくれる。  俺の口から漏れ出す小刻みな声と呼吸はどんどん早くなっていった。半身で俺に寄り添っている柊二さんの胸元に顔を埋めようとした時、柊二さんの指が俺を極限にまで誘う動きをした。 「ああっ…あっ…柊二さん…ダメ」 「ほら…いいからイケよ」  俺は柊二さんの肩に掴まりながら目をきつく瞑った。そして、ああっ、と顔を仰け反らして射精した。柊二さんは手の動きを止めると最後は絞るようにして包み込んだ。  俺はゆっくりと目を開けて柊二さんを見た。柊二さんは目尻に少し皺を寄せてこれ以上ないくらい優しい顔をしている。その眼差しに、俺は愛されている、と実感した。こんなに心が蕩けてしまいそうな幸福感は初めてだった。俺は愛されていると思える感情が自分の心に芽生えたことが信じられなかった。そして、また涙がこめかみを伝った。 「可愛い顔してさっきから泣いてばかりだな、お前は」 「だって、柊二さんがそんな目で俺を見るから…」 「俺が、どんな目だって言うんだ?」 「俺を愛してくれてる目…です」 「ああ、間違いないな」  柊二さんはベッドの下に脱ぎ捨てたシャツを拾うと、俺の腹の上の白濁液を拭いた。それから俺の頬を優しく撫でてくれた。その手には俺の匂いが付いていた。俺も柊二さんを感じたくなった。下腹部に当たっている柊二さんの雄に手を伸ばそうとした。 「触ってみるか?」  俺は、頷いた。そっと掴んでみた。俺の指では周りきらない雄々しい存在。 「柊二さん…教えてよ。俺…どうしたら?…柊二さんは俺にどうして欲しい?」 「今日は、何もしなくていい」  柊二さんは静かに言った。俺のおでこにキスをして、週末にゆっくり過ごそう、とだけ言って目を閉じた。  俺は、はい、と返事をしたが、掴んでいるその手は離さなかった。

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