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再会〈2〉

「ここ、研ちゃんのお店なのね…『小料理屋須貝』ってなんかカッコいいじゃない。それに作務衣姿も様になってる。イケメンは何を着ても似合うのね」  エリ子さんはカウンター席に座って辺りを見回した。   「ここはいつからやってるの?」 「はい。開店して半年ほど経ちます」  新倉さんも店に入ってきた。 「新倉さん、ご無沙汰してます。さっきはすいません。あんな顔をしてしまって」 「いいんだ。お前の気持ちはわかっているから」  新倉さんは、それ以上何も言わなかった。柊二さんのことは話せることがあるなら、すぐに話してくれるはずだ。それを黙っているのは訳があるんだろう。俺が訊いてしまうと、新倉さんは嘘をつくことになるかもしれない。心苦しい。  俺はお茶を淹れようと湯呑みを出した。 「ねぇ…研ちゃん。太一君のこと覚えてるでしょ?」  重苦しい空気を変えようとエリ子さんが言った。  赤尾太一君だったな。嘘つきって泣きながら言われたっけ。で、俺は抗不安薬を飲んで…それがきっかけで俺は柊二さんのことをもっと知りたいと思ったんだ。 「覚えてますよ。俺の作った料理を美味しいって言ってくれましたよね」 「そう、その太一君が、今ね」 「赤尾と一緒に鉄の農場にいるんだよ」 「もう!私が言いたかったのに」  エリ子さんは口を尖らせて新倉さんを睨んだ。   「藤澤さんの所ですか?」 「ああそうだ。術後リハビリをしても完全には治らなくてな、太一のこともあって組を出たんだ」 「お兄ちゃんも同じ様なものでしょう?…で、ウチで働くか?って言ってくれてね。太一君と一緒に農場の近くのアパートに引っ越したの」 「じゃあ、おばあさんは?」 「ああ…一旦は持ち直したんだがな、赤尾がまだ入院している時に病院で亡くなったって、俺も後から聞いたんだ」 「でね、お兄ちゃんが言ってたけど、太一君がコックさんのお兄ちゃんに会いたいって、言ってるんだって」 「赤尾もお前に会えたら礼が言いたいって」 「そんな、礼だなんて」 「太一君も、あの別れ際に研ちゃんにしたことが、どういうことだったのか、赤尾さんと話してちゃんと理解してるのよ」  よかった。おばあさんは亡くなってしまったけど。赤尾さんはきちんと太一君と向き合ってくれてるんだ。それに保育園に通って友達もたくさんいるって話してくれた。  辛いことがあってたけど、幸せになってほしい。俺は和やかな気持ちになった。  それから俺は、ビジホで別れてからの話しをした。金髪パーマにするとヘアモデルになって欲しいと言われたことを話しながら、その時に自撮りした写真を見せた。 「いや〜ん…研ちゃんったら、アイドルみたい。めちゃくちゃ可愛いじゃない。ねぇ、この写真ちょうだい。待ち受けにしたいわ」  新倉さんは不機嫌になるかなと思いながら、エリ子さんのスマホに送った。が、新倉さんは、それならアイドルの今を撮ってやるよ、と言ってエリ子さんと俺のツーショットを撮ってくれた。久しぶりに会ったせいでなのか今日は寛容みたいだ。エリ子さんとポーズを決めて何枚か撮ってもらった。その後、エリ子さんは、その写真ちゃんと送ってよ、と言った。  そうか…新倉さんは俺の写真を柊二さんに見せようとしているのかもしれない。柊二さんは今どういう状況なのかはわからないが、柊二さんのために俺を探し出して、そして写真を撮って、今の様子を伝えようとしてくれているのかもしれない。全ては俺の想像だけど…たぶん当たってる。一時間ほど話した後、新倉さんとエリ子さんは、また来るね、と言って帰っていった。  走り去っていく新倉さんの車を見送りながら、柊二さんに俺は元気ですって伝えてくださいね、って心の中で叫んだ。  それから二週間も経たないうちに、新倉さんとエリ子さんはまた店にやって来た。  今回は、柊二さんのことを何か聞けるか期待をしたが、新倉さんは俺の話しばかりを訊いてきた。間接的に柊二さんに伝わるのならと思い、俺は今、婦人会のおば様方からプリンスと呼ばれていることや、たまにお手伝いで畑仕事をしていることを話した。  エリ子さんは、プリンスと聞いて、わかるぅ、と頷いていた。  新倉さんとエリ子さんは、月に二、三回は、店に来てくれた。新倉さん一人の時もあったが、お互いに柊二さんの話しをしないのは暗黙の了解になった。こんな時にカンジさんがいたら、ポロッと喋ってくれるのに。新倉さんもそれがわかっているのかカンジさんは連れて来ない。    そして、新倉さんとエリ子さんが『須貝』に来てくれる様になって半年近くが過ぎようとしていた。  季節も変わり始め、季節の新メニューを考えたり、住職からは『須貝』の一周年イベントを寺で何かしないか、と持ちかけられたりしていた。  住職も法話会をしていることもあり、歳の割と言ったら怒られるが、実はノリがいい人だった。口の悪さは相変わらずだけど…。  その日はいつもより気温が低く、そろそろ暖房の季節かと思いながら、朝から試しにエアコンを入れた。押し入れの奥にしまった毛布も引っ張り出した。  拘置所は冬は寒いんだろうな、と柊二さんを想った。何年経ってもいい。刑期を終えた時は俺が柊二さんを迎えに行きたい。そして、お勤めご苦労様でした、とか言ったりして。  昼営業の仕込みをあらかた済ませて居室にいると、店の戸が開いた音がした。たまにフライングで来店する常連さんがいる。俺は、またあの人かなと思いながら店に出た。  暖簾を捲ったまま俺は動けなかった。息をするのさえ忘れるほどだった。  その人は開けた戸を支えにして立っていた。 「…待たせたな…研一」 「…柊二さん!!!」  俺は叫んだ。俺は裸足のまま駆け寄った。俺が勢いよく抱きつくと、その反動で柊二さんは後ろによろけた。すると、新倉さんが柊二さんを支えた。  柊二さんだとすぐにわかったがその姿は別れた時の柊二さんとは別人のようだった。伸びてボサボサの髪に、グレーのスウェットの上下を着て、サイズが合っていないジャケットを羽織っている。そしてその目は落ち窪み、頬は痩せこけていた。 「研一、悪いが、柊二さんを寝かせたい」 「はっ…はい。すぐ布団を敷きます」  俺は、座卓やら座布団やらを部屋の隅に押しやって、すぐに布団を敷いた。何がどうなっているのか考えるのは後だ。  新倉さんとエリ子さんに支えられて柊二さんは布団の上に横になった。羽織っていたジャケットは新倉さんの物だった。

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