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再会〈3〉
横になった柊二さんは、すぐに目を閉じた。俺は何も言えずに柊二さんを見ていると、エリ子さんが、こっちに来て、と店の方に俺を引っ張った。
「研ちゃん…柊二さんね、もう長くはないのよ」
エリ子さんは辛そうに言った。
あの様子を見れば想像はつく。でも、どうして…。
「だったら…だったらどうしてもっと前に柊二さんを…お二人がここに来てくれたのは、半年も前のことじゃないですか」
すると新倉さんが、それは俺から話す、と言って店に来た。
「すまなかったな、研一。何も話せなくて」
エリ子さんは新倉さんを見た。
「ねぇ、柊二さんは?」
「ああ…かなり強行だったから、今は眠ってる」
「ねぇ、大丈夫よね。まさか、このままなんてこと無いわよね」
「バカヤロウ。やっと研一に会えたんだ。柊二さんがそんな根性無しなわけがないだろうが」
新倉さんは真剣な顔でエリ子さんを叱った。
「そうですよね…今しか無理だった事情があったんですよね…すいません」
「そんな、謝らないで研ちゃん」
「研一。柊二さんは眠っているから、柊二さんの傍で話すよ」
俺は柊二さんの顔が見える場所に座り、新倉さんとエリ子さんは柊二さんの足元に座った。柊二さんの顔は穏やかだった。
「ビジホでお前と別れて、その二日後に柊二さんは逮捕された。鉄から聞いてると思うが脱税の容疑だ」
新倉さんは俺の様子を見ながらゆっくりと話し始めた。
「お前を巻き込んで本当に申し訳なかったが、あの帳簿とパソコンは脱税の決定的な証拠品だったんだ。お前が機転を利かせてくれたお陰で、それらは鉄の手で完璧に処分することができた。お前も自分の足取りが付かないように俺が渡したスマホも電源を落としてくれていた。逮捕はされたが決定的な証拠もなく、それにオヤジさんが、その手に強い弁護士を何人か雇ってくれてな、拘留期間ギリギリまで取り調べをされたが、証拠不十分で柊二さんは不起訴になって釈放されたんだ」
そうか、逮捕されてなかったんだ。
「柊二さんは、お前に連絡を取ろうとしたんだが繋がらなかった。繋がらない理由も柊二さんは仕方がないとわかっていた。で、お前を探そうとした時、オヤジさんが、麗蘭の我儘を聞いてやってくれないか、って頭を下げて婚姻届を渡したんだ。オヤジさんも最初は柊二さんとの結婚は認めなかったんだが麗蘭に押し切られたようなんだ。柊二さんは自分を不起訴にするために大金を支払って弁護士を雇ってくれた恩も充分理解していた。それで結婚の申し出を断れば山東会をただ出るだけじゃなく追われる可能性もある。お前を探し出せてもその後のことも考えたんだろう。何しろヤクザなんだからどんな手を使ってでもやり返す。それに国税や警察からこの先目をつけられるのは必至だ。それでも会社をやっていけるのは柊二さんしかいない。柊二さんが社長を辞めるとたちまち会社は立ち行かなくなって、組員やその家族も路頭に迷うことになる。柊二さんはな…柊二さんは断腸の思いで婚姻届にサインしたんだ」
柊二さんは麗蘭さんと結婚したんだ。どうしようもない理由があったとはいえ…ショックだ。
「それから三ヶ月ほど経った時、野崎先生がたまたま街中で柊二さんを見かけてな、その時の柊二さんの様子に異変を感じたそうだ。俺たちも結婚でのストレスや激務で少し痩せたと思ってはいたんだが、先生は気になったからって事務所に往診に来てくれてな、採血をして検査に出したんだ…それで進行性の病気かもしれないと言われた。野崎先生に紹介してもらった病院で精密検査をして…余命宣告を受けた。長くて半年だってな」
それで新倉さんは俺を探してくれたんだ。
「日常生活はまだ家でできる状態だったんだが、柊二さんは宣告を受けたその日に入院をした。だが治療は拒否をしたため病院と相談してすぐにホスピスへ転院することになった。柊二さんは家にいることで組に迷惑をかけると言ったが、本当は麗蘭と離れたかったんだと思う。それからの俺たちは、山東会の総力を挙げてお前の行方を探したんだよ。命を限られた柊二さんの望みを何としても叶えたかった」
「俺は、柊二さんは逮捕されて服役していると思っていました。刑期を終えた柊二さんを支えるなら自分が腰を据えて生活をしていないと、と思ってここを始めたんです」
「そうだったのか…何も話していなかったからな。普通はそう思うよな」
新倉さんはエリ子さんと顔を合わせた。
「お前を探すといっても、俺たちはお前のことは何も知らなかった。レブロンで働いていたことしか知らない。で、そこらじゅうの洋食屋に電話をかけた。レブロンにも聞きに行った。でもお前はどこにも見つからなくて…そんな時、エリ子が 柊二さんと墓参りの話しをしたことを思い出してな。殿村家の墓がある寺までは車でニ時間もかからない所にあるのに全く行ってないって柊二さんが言ってたって。ひょっとして研一はその寺の近くにいるんじゃないかって考えてな、今度は二時間くらいで行けそうな寺に電話をかけまくった。それで姫信寺ってとこに殿村家の墓があるとわかったんだ。俺たちはお前がその辺りに絶対にいるって賭けたんだ。で、その寺へ行く途中に『小料理屋須貝』って看板を見つけてな」
「そうよ。もう、二人して車の中で、大絶叫よ。『あれだっ!』ってね。本当に奇跡よ。柊二さんと研ちゃんの絆が導いてくれたのよ」
俺もここにいたら、柊二さんは探し出してくれると思った。本当に絆があったんだろうか。でもな…。
「お前の居場所がわかったことを柊二さんに伝えたら、本当にホッとしていたよ。心の底から、よかった、って言ってな、俺は初めて柊二さんの涙を見たよ」
新倉さんはその時のことを思い出して目頭を押さえた。新倉さんは、一呼吸おいて、それからな、と続きを話した。
「俺は柊二さんに、研一をここに連れて来ます、と言った。でも柊二さんは、ダメだって言うんだ。誰にもわからないように連れて来るからといくら言っても了解はしてくれなかった。麗蘭はともかくオヤジに不義理はできないと言って、頑なにお前と会おうとしなかったんだ。俺の勝手な推測だが、組への忠誠やオヤジさんへの義理だとしても麗蘭と結婚したことは、お前への裏切りだと柊二さんは思っていたんじゃないかってな…だからこそ自分が許せなくて、自分への罰としてお前に会いたくても会おうとはしなかったんじゃないかって…」
エリ子さんも涙ぐんでいた。
「本当に、頑固なんだから。でもそれが柊二さんだものね」
そんなことがあったなんて…柊二さんらしいといえばそうなんだけど。じゃあ、今、ここに来てくれたのは、もう最期だから?
「新倉さんはここに来てくれると、いつも俺のことをしきりに聞いてくるから…たぶん柊二さんに伝えてくれてるんだろうなって思ってました」
新倉さんは、わかってたか、とクスッと笑った。で、また表情を引き締めて話しを続けた。
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