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再会〈4〉
「まぁ当然のことだが、柊二さんは日に日に体調が悪くなっていった。入院当初は、一緒に散歩したり椅子に座って話しもした。が、移動は車椅子を使ったりベッドで横になることが多くなった。俺は、研一と会ってくださいと何度頼んでも柊二さんはダメだと言った。俺は研一にも柊二さんに会わせたかった。柊二さんがどうしてもダメだと言うのなら、俺は勝手に研一を連れて来て、内緒で柊二さんの姿を見せようと考えたんだが、柊二さんは俺の考えることなんてお見通しで、余計なことをすると面会謝絶にするぞ、って言われた」
その時のことを思い出してか新倉さんは溜息を吐いた。
「それで、エリ子にも相談した。会いたいのにどうして会おうとしないんだって。もう本当に長くはないってわかってるのに」
「ひょっとしたら柊二さんは、麗蘭さんの夫という立場で研ちゃんに会いたくないのかなって思ったのよ…だって新倉が研ちゃんの様子を伝える度に、本当に嬉しそうな顔をしてね…絶対に心底会いたいって思ってるのよ……でね、離婚させようって決めたの」
エリ子さんは度胸のある女性だ。
「役所で離婚届をもらってきて、証人欄に俺たちの名前を書いて、それを持ってオヤジさんと麗蘭のところへ行ったんだよ」
続きはエリ子さんが話した。
「新倉はね、柊二さんのためなら命を懸けられるのよ…」
そう前置きをした。藤澤さんから聞いた話しを思い出した。
「オヤジさんと麗蘭さんの前に離婚届と合口を差し出してね、離婚してください、って新倉は土下座をしたの」
合口って…離婚のために命を差し出そうとしたのか、いやその覚悟をオヤジさんに見せたんだ。
「オヤジさんは黙ったままだったけど、麗蘭さんは狂ったように怒り出したわ」
あの誕生日にやったことを思い出すと、その姿は容易に想像できる。
「うるさいっ、黙れっ、て何度も新倉を張り倒して、それでも新倉はじっと耐えたの」
エリ子さんの声が震えている。
「麗蘭さんは、新倉の合口と離婚届をその場で何度も踏み付けたの…するとね、オヤジさんが『この、大馬鹿者がっ!』って麗蘭さんを一喝したの。オヤジさんの剣幕に驚いて麗蘭さんはその場にへたり込んじゃって…でねオヤジさんは、大の男が命を張った頼みごとを、お前は足蹴にするようなそんな人間に成り果てたのか、って大激怒よ。人間が怒りで青白い炎を噴き出すのを初めて見たわ」
それから、オヤジさんは土下座をしている新倉さんの傍に行き、その場に屈むと麗蘭が踏みつけた合口を拾って、まるで穢れを落とすかのように、丹前の袖口で丁寧に拭き、そして離婚届は代理で自分が書くと言って、合口を返したそうだ。
「で、麗蘭さんはね、わかったわよ書けばいいんでしょ、ってヤケ糞で離婚届にサインをして、オヤジさんに投げつけると部屋を出て行ったの。で、オヤジさんから離婚届を受け取って…最後に『柊二のこと頼むぞ』って新倉に言ってくださって。我儘娘に育てた責任も感じてるのかもしれないけど、あの時は山東会の頂点に君臨する会長の子分への計らいだったわね」
その後は、新倉さんとエリ子さんは麗蘭さんがサインした離婚届を持って柊二さんが入院しているホスピスに行き、柊二さんはサインされた離婚届を見ると何も言わずにサインをした。その後、半ば拉致同然で柊二さんを車で連れ去り、役所に行って離婚届を提出し、そして受理されたことを確認して、その足で俺の所に来たのだと、エリ子さんは話した。そして一息ついた。
「とにかく、研ちゃんのとこに早く行きたいんだけど、新倉が運転すると絶対にスピード違反になるから私が運転したのね。そうしたらトロトロ運転するなって新倉は怒鳴るし、野崎先生からは電話がかかってきて、柊二を殺す気かっ!って大目玉を食らうし…でもね『須貝』に着いた時の柊二さんの顔、本当に嬉しそうだったのよ。新倉も私も今日は人生で一番良い行いをしたと思ってるの」
目を潤ませているエリ子さんのその顔は誇らしげだった。
柊二さんは一人で立つことも難しい状態なのに、俺との再会は一人で行かせて欲しいと、店の前に立つと手助けを断ったそうだ。
「柊二さんは…柊二さんはね、研ちゃんと別れた時のままの柊二さんなのよ」
「はい…また会えると信じていました。本当にありがとうございます」
俺は眠ってる柊二さんの手を握った。骨張った手は冷たかった。
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