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遠くへ〈1〉
四十九日法要の朝。快晴だ。
店の外は凛と澄み渡っていた。俺は喪服に身を包み柊二さんの遺骨を持って姫信寺に向かった。
あれから、二代目さんは、度重なる住職のプレッシャーの中、四十九日の法要に何とか間に合わせてくれた。
初めて姫信寺の事務所で打ち合わせをした翌日に、二代目さんは『須貝』に来てくれて、墓石選びの相談に乗ってくれた。墓石に刻む文字もカタログを見せてもらった時に思い浮かんだ字があった。『愛』の一文字だ。
柊二さんに愛されて、柊二さんを愛した。この文字以外は考えられなかった。墓石は、柊二さんお気に入りの車をイメージして、黒くて低めで横に長い石をピカピカに輝くよう磨き上げてもらうことになった。
法要の前日、俺は二対の花を買った。一対は殿村家の墓に供えた。そしてもう一対はその斜め隣の新しい墓の花立に生けた。
明日、柊二さんはここに入るんだと、ホッとした気持ちと、俺の手元から離れてしまう淋しさもあった。
俺が姫信寺に着くと、喪服姿の新倉さんとエリ子さんが境内にいた。
「おはようございます。今日はありがとうございます」
「おはよう、研一。さっき住職に会って挨拶したら、墓に案内してくれた」
「素敵なお墓ね。柊二さんのイメージにぴったりだわ」
「お前、愛、だなんて、カッコつけやがって」
「柊二さんと俺には、それしかないですよ」
「もう、研ちゃんったら…キュンときちゃう」
事務所から、黒の法衣の上に色のついた袈裟を纏った住職が出てきた。初めて見る姿だ。口は悪くても今日の住職には気品と威厳が備わっていた。
本堂で四十九日の法要が済み、住職の後に続いて墓地に向かった。納骨だ。俺は白布で包まれた箱をぎゅっと抱きしめた。
そして、墓地に響き渡る住職の読経の中、俺はお墓の納骨室へ柊二さんの遺骨が入った骨壷を納めた。
四十九日と納骨法要を滞りなく終えて、新倉さんとエリ子さんと一緒に歩いて店へ向かった。
「なぁ、研一。店はどうするんだ?」
「はい。来週から始めようと思ってます。そろそろ開けないと、柊二さんに、いつまで休んでるんだ、って怒られますよね」
「婦人会のおば様たちも心待ちにしてるでしょ?」
「かもしれませんね」
俺は笑顔で言ったつもりだったが、店の前に着いた新倉さんは、俺の顔を見て心配そうに言った。
「研一、どうした?…無事に終わったのに浮かない顔をしてるぞ」
「あ、いえ…終わってホッとしてるんですが」
「どうしたの?研ちゃん」
「なんて言うか、別居って、こんな感じなのかなって…」
「はぁ?別居だって?」
新倉さんは裏返りそうな声で言った。
「何か柊二さんだけ、新居に引っ越したっていうか…毎朝、毎晩、ずっと柊二さんの遺骨に話しかけてたんですよ…でも、もう店の中には…」
新倉さんは、呆れた顔を俺に向けた。
「ははぁん…さては、お前…遺骨で抜いてたんだろ」
優しく心配してくれたと思ったら…。
「もうっ!新倉さん、なんてこと言うんですか!」
「冗談だよ、冗談だって」
「もう、新盆の時には柊二さんに化けて出て来てもらいますからね」
「ひぇ〜おっかねぇ」
そう言いながら、新倉さんは俺の顔を見て笑った…けど、その顔が急に険しくなった。どうしたんだろう…。
「ごめんね、研ちゃん。帰ったらうんと叱っとくから…もう本当どうしようもないんだから」
エリ子さんは、新倉さんの険しい顔を気にすることもなく俺に話し続けた。
「ねぇねぇ、研ちゃん。今度お店が再開したら、お墓参りを兼ねてカンジ君を『須貝』に連れて来ようかしら」
「そうですね…俺もカンジさんに会いたいです。ぜひ来てください。お待ちして…ま………す…」
「────研一!!!!」
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