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第2話 マリアージュを誓った夜、シャバタンは死んだ
満天の星空。
バルドとこんな夜空を見上げるのは、三度目だろうか。
どれも、綺麗だったが、命の危険と隣り合わせの狩りだった。
今は、ただただ静かな荒野だ。
大きな岩の上に登り、バルドが焚き火を作って、何か料理をしている。
その隣で、蓮は星を見上げるように寝そべった。
星空の中に放り出されたような感覚に、この世界にはバルドと蓮、二人だけなのではないかと錯覚するくらい、満天の星だった。
(二人だけか、それでも良い……)
蓮がそんなことを思っていると、バルドがニコニコと缶を手渡してきた。
瀬名が車に付けていた空き缶だ。
「熱いぞ」
受け取った缶の中には、シャバタンとファラが炊かれていた。
何かの香草も入っているようで、香りが良い。
「空き缶が皿か?」
「ちょうど良かったんだ。材料入れて火に入れれば簡単に出来そうだったから。シャバタンの水分もちょうど良かった」
「ふぅん」
蓮は空き缶からひと匙ファラをすくって口に入れる。
カルの振り加減がちょうどよく、ファラのプチプチした食感と、シャバタンのシャキシャキ感が面白い。
後から香ってくる香草の香りも食欲をそそる。
「美味い。これ何の香りだ?」
サバイバルにも程がある環境で、美味い飯が食えるのは嬉しい。バルドの技術と発想に感謝だ。
「さっきの小さい花だ。モミモに漬けようと思ったんだけどな、匂いが嫌そうだったから、シャバタンと一緒に缶に入れた」
「お……そうか……」
先ほど、ほんの少し意思疎通を交わしてしまった花。
バルドは食材として見つつ、その意志を汲んで料理をしたと言う。
名も知らない花の、その命に、いただきますと蓮は心で手を合わせた。
(いや、俺も食われるところだったな)
ここは、何もない荒野ではなく、弱肉強食の大自然の中なのかと、蓮は満天の星に少し背筋がゾッとした。
無意識にバルドに身を寄せる。
「モミモにつけたシャバタンも食べてみるか」
「いや、それは……」
「蓮はモミモの爺さんの海鮮焼き食べてないだろ?本当に美味かったんだぞ。旨みがこうギュッとなっててな。しょっぱさの中に甘みもあって……」
「わかった。食べてやるよ」
バルドの熱弁に、蓮は仕方なく食べることを了承したように言う。
実際は、バルドが美味いというものなら食べてみたい。
「少し炙った方が良いかな」
バルドはモミモからシャバタンを取り出すと、手に持ったまま小さな火を近づけ炙り出す。
「よく火傷しないよな」
「ん?これくらいなら大丈夫だろ」
「俺の手は簡単に焼けるぞ」
蓮はパンを持たされたまま焼かれたことを思い出し、ジットリとした視線をバルドに向けた。
「あー、あれはごめんなさい。蓮も修行するか?便利だそ?」
「するかよ。バルドが焼いてくれればそれで良い」
「……それ……ずっと、俺の料理が食べたいってことか?」
感動したように目を輝かせるバルドに、蓮は気まずそうに視線を逸らした。
しかし、まぁ、そういうことだ。
無言でバルドに引っ付いたら、シャバタンを渡された。
多少のモミモ臭はするが、見た目は軽く焼き目のついた美味しそうな果実だ。
「ずっとずっと美味いもの作ってやるからな。マリアージュ作っていこうな」
「そうだな……」
満面の笑みのバルドに、蓮は微笑みを返し、二人はシャバタンを同時に口に入れる。
「まっっずっっ!!」
蓮は、口に入れたものを飲み込めず、ペッと吐き出した。
バルドは何とか飲み込むが、多少涙目になっている。
モミモの香りと、水分の抜けたシャバタンの紙かと思うような舌触り、そして何かヌメっとした食感、味は無い。
「美味いんじゃ無いのかよ!」
「海鮮屋台の爺さんのは美味かったんだ!」
「じゃあ、これはなんだ」
「失敗だな……」
バルドはわかりやすく肩を落とした。
今しがた、ずっと美味いものを作ると言ったばかりでこの味だ。
プロポーズ失敗くらいの落胆ぶりに、蓮はバルドに軽く口付けてやった。
「なら、また作ればいいだろ」
口直しに、空き缶のシャバタンを食べて、こっちは美味いと笑ってやったら、バルドに強く抱きしめられた。
パチパチと焚き火が爆ぜている。
蓮は満腹にはならなかったが、満足して空になった缶を置いた。
「蓮の家のご飯も美味しかったな」
「そうか」
「あぁ、あの味で蓮は育ったから、舌が肥えているんだな」
少し前の蓮なら嫌悪していただろうが、ソムリエとしても大事な舌があるのは、おの家のおかげでもあるのかと少し嬉しくなった。
「蓮は、お母さんに似てるんだな」
「そうだな。兄貴は親父とも似てるけど、俺は完全に母さんの遺伝だな」
「あぁ、綺麗だもんな」
ニカっと笑うバルドの笑顔に、蓮は複雑な表情を返す。
「昔はさ、親父の本当の子供じゃ無いのかと思ったこともあった」
「蓮……」
「親父、目も合わせてくれねぇし、嫌われてるもんだとさ……貴族って、よくあるんだよ。どこでできたかわからない子供。体裁上、自分の子供として育てるんだけど、実は使用人の子とか。どこかで誰かに産ませた子とかな。まぁ、今となっちゃどっちでも良いけどな」
「蓮…………」
「気にすんなよ。俺はあの家に愛されてた。今回、バルドが一緒だったから、ようやく分かったんだ。親父と意気投合してくれてありがとな。て言うか、お前の方がうちの親父に似てないか?」
蓮は冗談ぽく笑う。
実際、長年のわだかまりが解けたのはバルドのおかげだ。
モミモを持ってきて、よくわからない話で伯爵の緊張を解き、何の力か兄の秘密の部屋を見つけた。
きっかけもそうだが、ずっと蓮の心に寄り添っていてくれた。
蓮は、アホみたいに天然なバルドをありがたいと思い、心から信頼を寄せて、愛している。
バルドは神妙な顔で、蓮を見つめる。
「あのな、蓮。俺、気づいたことがあるんだ」
「……なんだよ……」
いつになく真剣なバルドに、蓮は身構える。
「俺、俺の、父さん。本当の父さんは、蓮のお父さんなんじゃないか?」
「はぁ????」
蓮に白い目を向けられても、バルドは真剣な顔をしている。
焚き火に照らされて、月の光を浴びて、真剣な顔のバルドは格好良い。
格好良いが、アホだ。
「俺の親父は人間だ。お前はどう考えても純血のライオン獣人だろ」
呆れた声で返せば、バルドはホッと肩の力を抜いた。
「そうだよな……良かった……もしそうなら、俺、蓮と結婚できないと思って……」
「…………あーそーだなー」
良かったと呟きながら、抱きしめてくるバルドの背中を、蓮はポンポンと撫でてやる。
荒野の夜は冷える。
体温が伝わってきて、心地よく、蓮はバルドの胸に顔を埋めた。
ギュッと抱きしめられる腕は、力強く、同時に本気で不安だったのだと感じた。
その制御された腕の力に、どうしようもないくらい、愛おしさが込み上げてくる。
満点の星空の下、大きなバルドに包まれて、蓮はキスをする。
最大の、愛してるを込めて。
「なぁ、バルド……」
バルドの愛を受け取りたくて、もっと肌を合わせたくて、甘えた声を出せば、バルドが照れたように、蓮を押し倒した。
「背中、痛くないか?」
ベッドのように柔らかくない岩肌は多少不快だが、それよりも、バルドを感じたくて蓮はバルドの首に腕を回した。
何度も繰り返される、深い口付けに、頭の芯が解け始めた時、ゆらゆらと光が動いているのを感じた。
焚き火の火では無いことはバルドにもすぐわかったようだ。
しかし、蓮にはどうでも良い。
体を起こそうとするバルドを引き寄せて、服を脱がせようとする。
バルドの手を、自分の服の中に引き入れて、胸の突起に触れさせた。
「んんっ……ぁ……」
蓮が小さく声を上げた時、岩の下から声が聞こえた。
「おーい、誰かいるのかー?遭難者かー?」
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