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【3】-04

 美月が語った話である。  急にこんなこと切り出して、やばい女すぎるよねー。  マヨくん、思ったより引かないんだね……怖い話苦手って、この前言ってなかったっけ? 違った?  苦手だったらごめんね、断ってくれてもいいんだけどさ……正直こんな話、マヨくんじゃないと聞いてくれないと思ったんだ。普通の友達も、同僚も、きっと信じてくれないから。  こっくりさんって、知ってるよね?  そう、あのこっくりさん。  こっくりさんこっくりさん、鳥居からおいで下さい――のやつ。あ、詳しい呪文は忘れたけど、そういうやつだよね?  こっくりさんをね、してほしいの。わたしと一緒に。  わたしね、毎年必ずこっくりさんをやらないといけないんだよ。そういうをしたから。  毎年欠かさず、必ず六月の末にやらないといけない。ずっとずっとこの二十年、私達はこっくりさんを欠かしたことはない。  最初の一回目は、ただの遊びだった。  私の通ってた中学校は進学校で、携帯とかそういう私物の持ち込みは全面禁止だったんだよね。見つかったら即没収で、職員室まで取りに行かないと返してもらえない。  だからみんな、ゲームとかSNSとかで暇を潰すことができなかった。それでも紙でトランプ作ったり、サイコロ作ったりして頑張って遊んでたよ。  こっくりさんも、限られた『秘密の遊び』の一つだった。  紙と十円玉だけで遊べるし、机を囲んでひそひそと声を出すだけなら、案外目立たない遊びだから。  でも私、あんまり興味なかったんだよね。  うちのお姉ちゃんが霊感持ちっていうか、ちょっと勘が強い人でさ、こっくりさんは絶対にやるなってうるさかったから。  お墓の前通って帰るだけで、なんでそんなもの憑けてきたの! って塩を投げつけてくる変な人だった。  正直、マジで痛い霊感女じゃんって思ってたけど、でも本当に何度も何度も『こっくりさんにだけは近づくな』って言うからさ、さすがにちょっと怖かったんだよ、私も。  でも、あの日のこっくりさんに、私は参加した。  友達の委員会が終わるのを待ってただけだった。放課後の教室はまだまばらに生徒が残っていて、地味な女子グループがいつも通りだらだらしてた。ちょっとオタク? って感じの子たち。  その子たちに、こっくりさんやろうって誘われたんだよ。  何で私? って思ったけど、まあ、怖かったんじゃないかな。  彼女達、こっくりさんじゃなくて、『ほのかちゃんを呼ぼう』って言った。  野々村ほのかちゃん。  ほのかちゃんは私の隣の席の女の子で、オタク女子グループの子で、先月、学校のトイレで自殺した子だった。  学校の自殺って、屋上からドーンってイメージだったけど、私達が在学中はもう、屋上の扉って施錠されちゃっててさ。だから、トイレのドアに紐付けて、うん、そう、こう、だらーんって。  縄をね、わっかにしてね、わざわざ上に吊るさなくっても、人間は首を吊れるんだよね。私、その時初めて知った。  オタクグループの子の一人が、怖い話? なんていうか、オカルトって感じのものに詳しくて、こっくりさんは降霊術の一種だとか言い出したの。  はぁ? 何言ってんの? って思ったよ。  でも同時になんか、しっくり来た。本当に危ない遊びだから、うちのお姉ちゃんが『絶対にやるな』って言ったんだなって。それって結構、信憑性があるような気がした。あの人があんだけ必死に止めるんだから本当に幽霊が呼べる儀式なのかも、って。  それで私達四人で、こっくりさんでほのかちゃんを呼ぶことにしたの。  まずはこっくりさんを呼び出して、その後ほのかちゃんを連れてきてもらおうって事になった。  信憑性がーとか言っておいて何だけど、半分くらいはどうせ何も起きないよねって思ってた。そういう風に思いたかっただけかもしれないけどね。私、結構ビビってたと思う。  隣の教室や廊下に人がいない事を確認して、私達は例の紙を広げた。十円玉は妙に汚くて、薄気味悪かったのを覚えてる。  全員で声を揃えてこっくりさんを呼ぶの。  勿論私は元々そんなものに興味なかったから、呪文だって適当だよ。なんかこう、ごにょごにょってさ、みんなに合わせて適当に声を出した。  一回目は何の反応もなかった。  もう一回、って言われて、言われた通りにもう一度呪文を唱えた。  それでも十円玉は動かなくて、もう一回最初から――もうこの時にはちょっと飽きてたけど、さすがに三回目になると文言も覚えてたし私もちゃんと声を出して呼びかけた。  そしたらさ、動くわけ。十円玉。つ、つ、つ、って感じで、鳥居の絵の周りを一周したの。  みんなびっくりして、一瞬で空気がピリッとしたよね。本当に怖い時って、叫んだりできなくて、息をするのも忘れちゃうんだよね。  私達は質問した。  ――こっくりさん、こっくりさん、野々村ほのかちゃんを知っていますか?  答えは『はい』。  ――こっくりさん、こっくりさん、野々村ほのかちゃんを連れてきてもらえますか?  答えは『いいえ』。  このあたりで私は「これ、誰かが動かしてるんでしょ?」って思い始めた。ちょっと質問に対する答えが早すぎるし、的確すぎてつまらなくなってきた。  嫌だって言うならやめようよ。そう言おうとした時、一回鳥居に戻ったはずの十円玉がまた、つ、つ、つ、と動き始めた。 『こ』 『こ』 『に』 『い』 『る』  ――ここにいる。  叫びそうだったけど我慢した。こっくりさんはこう言ったんだよ。 『野々村ほのかを連れてくることはできない。何故ならばもう、ここにいるから』  それからはみんなもう、ひどいパニック状態だった。ただ友達に会いたいとか、普段仲良くしてた子が死んじゃった悲劇のヒロイン感とか、そういう思春期独特のアンニュイな気持ちが、一気にオカルトホラーの恐怖に変わった。  それでも誰も十円から手を離す子は居なかった。絶対に離さないでって言われてた。みんな指先が震えて机まで震えていたし、私なんか指がつりそうで泣きそうだった。  でも誰も指を離さないから、十円玉はひたすらに紙の上を滑っていく。つ、つ、つ、って、文字の上に止まっていく。  もう見るのも嫌だった。でも義務みたいに、みんなひっ、ひっ、って息をしながら文字を追いかけた。  十円玉はただひたすらに、さむい、さむい、ここはいやだ、かえりたい、みんなといっしょにいたい、って言葉を伝えてきた。  帰りたかった。もうこっくりさんなんかやめたかった。でもね、十円玉が、こっくりさんが、ほのかちゃんが許してくれない。  お帰り下さいって何度お願いしても、十円は『いいえ』の上から離れてくれない。  そのうち一人本当に過呼吸みたいになっちゃって、もう一人はだらだら泣いたまま失神しそうになっちゃって、だから私叫んじゃったの。  ほのかちゃん、また今度遊ぼうよ。だから今日は家に帰ろうよって。  その後の事は正直あんまり覚えてない――もうなんか必死で、気がついたら家の玄関で姉に背中ぶっ叩かれてた。お姉ちゃんぼろぼろ泣きながら、あんたのせいで、あんたのせいでって私の背中叩いてて、そのうち騒ぎに気付いたお母さんに止められるまでずっと姉は暴れてた。  でも翌日からも、私やあの日こっくりさんをした子たちに、何か変な事が起こるわけでもなかった。最初はそりゃ怖かったけど、人間って結構あっさり忘れちゃうんだよね、どんなに怖い体験も。  私達があの『約束』から逃れられたわけじゃないんだ、って気が付いたのはぴったり一年後、次の年の六月だった。  こっくりさんをやったメンバー全員が、怖い夢を見た。  首がぐちゃぐちゃに曲がったほのかちゃんが、どうして、どうして、って言いながら追いかけてくる夢だった。  すっかり忘れてたんだよね、本当に。  次の日すぐにこっくりさんをやったよ。そりゃ、怖かったけど、でもあのひどい夢を見るくらいなら、ほのかちゃんの幽霊と筆談して遊んであげる方がマシだった。  中学を卒業しても、高校を卒業しても、ほのかちゃんは私達を解放してはくれなかった。  場所はどこでもいい。ただ私達四人が、六月に集まることが大切だってわかったの。それからは六月が憂鬱だった。でも、少しでもサボると、ほのかちゃんは折れた首をぶらぶら揺らしながら私たちの夢に出て催促してくる――どうして遊んでくれないの、約束してくれたのに、って。  ……ね、ほら、マヨくんはさぁ、そうやって真面目に聞いてくれる。優しいよねぇ、ほんと。  うん、そう。一人ね、今年はどうしてもこのこっくりさんに参加できなくなっちゃった。妊娠しちゃってさぁ……あんまり経過が良くないみたいで、入院しちゃったんだって。さすがに、病院でやるわけいかないでしょ?  ただ、私達と一緒に、ほのかちゃんと遊ぶだけ。ただ、それだけの儀式だよ。  ……ねえ、マヨくん、お金は払う。勿論払うから、私達のこっくりさんを手伝ってくれないかなぁ?  ひとり、どうしても、足りないの。

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