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【3】-05

 集合場所は意外な事にカラオケだった。 「まー確かに、深夜に利用できる個室って意味じゃ、お誂え向きだわなぁ」  けらけらと笑う浬の横で、宵央は憂鬱な息を吐く。 「深夜の学校、とかじゃなくて、良かったとは思いますけど……でも、こんな繁華街のど真ん中で降霊術なんかしちゃって、大丈夫なんでしょうか……」 「普通は駄目だろ」 「……ですよね……?」 「ま、でも『わけのわからない狐狸の類』を呼び出すんじゃなくって、お知り合いの故人を呼ぶだけなんだろ? 確実にそいつが出てくるだけなら問題ないんじゃないの? たぶん。いや知らんけど」 「またそうやって浬さんは適当な事を言う……」 「だって知らんもの。おれはただ――」 「?」 「……そう。ただ、そこにあるもんを喰うだけのバケモノ憑きだ」  美月からの相談を打ち明けた後、ふーんと興味なさそうに唸った浬は特に悩んだ様子もなく間髪入れずに『そのこっくりさん、おれが参加するわ』と言い出した。  宵央の代わりに、自分が参加したい、と言うのである。  勿論怖い話や降霊術など関わりたくもない宵央にとっては、願ってもない申し出だ。事情話したら浬さんついてきてくれないかなぁ、とかすかに期待していた。  まさか、代役そのものに志願してもらえるとは。  とはいえ、浬が参加するとなると《獏獏》の仕事で請け負うことはできない。  美月には、宵央の知人がオカルトに興味がありぜひこっくりさんに参加したいと申し出ている旨を伝えた。浬に言われた通り『謝礼はいらない』と添えると、二つ返事で『ぜひ』と了承された。 「タダ働き、いいんですか?」  美月たちの到着を待ちながら、カラオケのロビーで浬に話しかける。いつも通りふわふわと楽しそうな顔を装っているだけの男は、鼻歌のような気軽さで言葉を吐いた。 「向こうからお願いしてきてるならまだしも、急に横からぬっと出てきた新キャラに『お祓いやってます! 霊能者もどきです! 良かったら参加しますよ!? 謝礼は一万からで!』とか言われたらシンプルに怪しいでしょ」 「……仰る通りです、が、でも、」 「最近マヨさんちでメシ食うからさぁ、食費浮いてんのよ。そろそろマヨさんに還元しなきゃ駄目じゃね? って思ってたとこだから、今日はおれのおごり。いい? 肝に銘じとけよ? 今日おれが助けんのは、こっくりさんに縛られてる女共じゃなくて、変な依頼断れなくて受けちまったマヨさんの方だかんな?」 「…………はい、む、胸に刻んでおきます……!」 「いやそこまで真面目にならんでも――お、あの子たちじゃね?」  視線で促され、宵央はその先に女性三人連れを見つけた。  長身の美月の後ろに隠れるように、地味な服装の女性が二人、周りの目を気にするように肩を寄せ合いながら入店してくる。  先頭の美月はすぐに宵央達に気が付き、溌剌とした声を上げた。 「相変わらずはやーい! マヨくんやっぱ目立つね。あれ、なんか今日いつもと雰囲気違わない?」  美月はいつも気さくな方ではあるが、今日は一段と距離が近い。一対一ならばあまり気にならない彼女のフレンドリーさも、隣に浬がいるとなると少し戸惑ってしまう。  尚、宵央の外見は確かに一月前から唐突に差がついた。  これは日々家に上がり込む浬が、出勤前の宵央の服や髪を完璧にスタイリングするせいである。 「マヨくんてそんな服もってったっけー? アクセサリーとか、あんまり興味ないって言ってたのに」 「そう、ですね、詳しくなくて、あまり……あの、そちらの方々が、今日ご一緒する神崎さん、と、荒川さん、ですか?」 「うん、そう。マヨくんのお隣のイケメンが、今日参加してくださる千里さん? 初めまして、本日はご足労いただきありがとうございます」 「……イーエ。立ち話もなんでしょ、先に部屋に入っちゃわない?」 「そうですね! わたし会員なんで手続きしてきちゃいます! ワンドリンク制だけど……選んでたらわちゃわちゃしちゃうよね、とりあえず全員烏龍茶で頼んじゃうね!」  慣れた様子でカウンターに向かった美月は、宵央と女性二人の気まずい沈黙など気にした風もなく、さっさと入店の手続きを済ませてしまう。  割り振られた部屋は四階の角の部屋で、ちょっとしたパーティールームのようだった。  店員が飲み物を置いて行く姿を見送った後、軽く自己紹介をする。  やせぎすでショートカットの女性が神崎。  ふくよかで黒髪をシュシュで束ねた女性が荒川。  二人とも家から急に呼び出されたような、当たり障りのない部屋着のような服装だった。  今から降霊術をやろう、というのだから、着飾る方がおかしいのかもしれない。美月はおそらく、職場から直行してきたのだろう。  時間は夜の十九時だった。  浬の『食事(じょれい)』は深夜零時前後が発動条件だが、今回の目的は霊の排除ではない。何時でもいーよという浬の言葉に甘えて、女性三人の都合がいい時間帯に合わせた。 「みんなご飯食べてきた? 大丈夫?」  軽やかに声をかける美月に対し、神崎と荒川は首を竦めるようにかすかに頷くばかりだ。彼女達の緊張は無理もない。ほとんど付き添い状態の宵央ですら、帰りたくて仕方ない。 「それじゃあええと……早速やっちゃおうか。うん。嫌な予定をずるずる引き延ばしても、しんどいだけだしね」  薄暗いカラオケルームの中で、美月は苦笑を零した様子だ。バッグの中から賞状入れのような筒を取り出し、中からチラシサイズの紙を広げる。  なんとなく子供が書いた歪な五十音を想像していた宵央だが、美月が広げた『こっくりさんの紙』は達筆な筆字で書かれていた。  ――思っていたより本格的だ。  ごくり、と息を飲んでしまい、隣に座った浬にわき腹をそっと突かれてしまう。落ち着け、と言いたいのだろう。確かに、部外者の宵央が緊張する必要などまるでない。 「……マヨさん無理なら外出てたら?」  見かねた浬が、苦笑を零しつつ小さな声で囁く。 「が、がんばります……浬さんを、置いていけないですし……」 「ナイト気質じゃーん。ふふ、まあおれ的にも目の届く範囲に居てもらった方が、ありがてえけどもね」 「それって……やっぱりこのこっくりさんって、危険って事なんじゃ……」 「安全安心だなんて一言も言ってねえけど?」 「そんな……!」 「ヤバかった時の為に、視えるおれたちがいる、ってイメージだ。ただおれは今日、マヨさんのボディガードだと思ってる。有事には他は切り捨てるから、マヨさんもそのつもりでいろよ」 「えええ……」  心強くはあるが、同時にひどく不安になる。  心霊現象に、人間のルールは適用されない。何が起こるか、そんなものは誰にもわからない。  いざ、予想もつかない怪奇現象が起こった時、浬は『女たちは助けない』と明言したわけだ。  とりあえず守ると保証されたことはありがたいが、他を見捨てるとここまで名言されるとそれはそれで困る。 「マヨさんも自分のこと優先しろよ。言っとくけどこっくりさんなんて、ライトにやる遊びじゃねえからな」  こっくりさんの怪談は怖くない。  だが、。  猫屋敷という呼び名の巨漢を思い浮かべ、宵央はもう一度息を飲んだ。

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