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【怪談屋敷は邪の巣窟】
來摩宵央は恋が怖い。
今までは恋人どころか友人にさえ縁がない人生だった。故に自分はそういう感情に鈍感だったのだな、と齢二十三にして知る。
「え、真夜中くんて怖い話苦手なの!? 店員なのに!?」
「苦手というか、ええと、すごく怖がり、というか……」
「へぇ~なんかそれって、かわいいね……。実は俺もさ、怖い話ってちょっと苦手なんだよね。この前は松田が無理やり引っ張ってきてさぁ、俺は嫌だって抵抗したんだけど。ふふ、でもかわいい店員さんに出会えて役得。あ、ピーチフィズもらえる?」
「はい、ただいま……甘めの方が良かった、ですよね?」
「うん、甘いの好き。真夜中くん、バイト二か月目ってほんと? 真夜中くんの作るお酒、おいしいよね……」
「えっと、ありがとうございます……?」
物理的に半歩くらい下がりたいのだが、残念ながら《八ツ辻》のカウンター内はそこまで広くない。
その上今日は後ろで癸が常連の相手をしているせいで、本当に身動きが取れない状態だった。
來摩宵央は恋が怖い。恋愛感情が自分に向いている状態に臆してしまう。
昔はこんな風に思う事はなかったし、他人の恋情に気が付く事もなかった。それは単純に他人との出会いの回数が少なかっただけかもしれないし、宵央の人生経験が極端に少なかったせいかもしれない。
普段ならば『まさか、僕如きにそんな、きっと気のせいだ、烏滸がましい』と思うところだが、さすがにここまでわかりやすく一対一で口説かれていれば勘違いなどとは言えないだろう。
なにせ五分に一回は『かわいいね』と言われるし、宵央が別の客と話し始めると途端につまらなそうにする。あからさますぎるというか、露骨すぎてむしろ怖い。
そして右側のカウンターからジッと注がれる男の視線が、痛くて痒くて怖かった。
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