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【5】-04
閑散とした田舎の廃墟のド真ん前に、煌びやかなデコトラが停まっていた。
「うっわ……九さんの愛車あいっかわらず派手っすね……」
近所迷惑……と窘めようとこそこそ廃墟から顔を出した浬だったが、生憎と臨家とは五百メートル程も離れている。都心からかなり離れた場所に位置する千同家は、現代人が想像する『田舎の旧家』の佇まいそのものだ。
あたりは庭だったもののなれの果てと、そして放置された雑木林と田んぼしかない。きちんと整備されていた道も雑草がつき出し、ところどころヒビが入って崩れていた。
よく言えば風情がある。悪く言えば何もない。
そんな景色の中に、明らかに異質な巨大な車が鎮座する様は、まるで質の悪いコラージュのようだ。
門だったものの影から顔を出した浬は、すぐにトラックの前で仁王立ちする女性に見つかってしまう。
まるで部屋着のような短パンとTシャツ、そして普段はきちんと巻いている髪を乱雑にポニーテールにした九だ。勿論《八ツ辻》でおなじみの狐面は被っておらず、ハリのあるすっぴんを惜しげもなく晒している。
バッチリと化粧をしなくても美人なので、顔を作ったら相当な迫力なのだろう。しかし彼女の本業は顔の良さを主力にした接客業などではなく、企業と契約する運送会社、つまりトラックの運転手だった。
彼女が個人的に保有している大型トラックは所謂『デコトラ』と言われる状態の派手な装飾が施されている。特に目を引くものは、荷台いっぱいに描き込まれた妖怪図だった。
「なんだっけこれ……鳥山石燕?」
「歌川国芳だっつの。あんた……あんた、それでも《八ツ辻》の常連なの!? 常連としての矜持はねえのか!?」
「ねえよ。しらねえよ妖怪なんて」
「つーかチリてめえ四日も消息不明とか舐めてんのかマヨち泣かせて何が楽しいんだオラァァァアア!」
「え、こわっ。おれちゃんと暫く消えるっつったが?」
「アンタが何処で何をしようが知らんけど、せめて連絡くらいはかえしてやれっつってんの! 返信は免除してやっけど既読はつけろっつってんの!」
「あ、ごめん、初日に携帯ぶっこわれたんだわ」
「…………いや、なにて?」
腕を組みビシッと仁王立ちしていた九の眉が、器用に跳ね上がる。
浬はごそごそとポケットを漁り、画面が真っ黒になったスマホをぷらぷらと揺らして見せた。
「いやさぁー別に何もしてねえんだけど、朝起きたら急にただの置物になっちゃってさぁー。レンタカーで事故っても嫌だし公共機関使ってゆっくり行くかぁ、って思ったのにこのザマでもう大変よ。電車の時刻もわっかんねーしタクシーも調べらんねえし予約してたホテルの決済もできねえし、そんで道は事故で封鎖、電車は人身事故でダイヤガッタガタ、結局こっちついたのさっきだよ。いうて日本国内それも関東圏内だぜ? 丸四日もかかるとはおもねえっしょ……」
「……なにそれ、何かがあんたの帰省を妨害した、的な?」
「オカルト的にはそうなんじゃないの? いや、レンタカーで来なくて良かったわ、タクシーも一回崖から落ちそうになってたし、おれ一人で運転してたらぜってー今頃事故って死んでた」
「いや、そんな、それならマヨちと一緒に来いよ……あの子別に昼職忙しいとかじゃないでしょ?」
「やーだよ。万が一目の前でおれがガチで死んだら、マヨさんの一生のトラウマじゃん」
「……ガチで死ぬかもしんないとこに、軽い気持ちで来んなよ、阿保……」
そういうところだぞ、と言われたところで、浬は己の性格を改めるつもりはない。
そもそも無断で消えなかっただけでもえらいのでは? とさえ思っていた。
連絡が返ってこないことで、宵央や癸あたりは心配していたことだろう。しかし出先で携帯電話が壊れてしまったとなると、連絡の手段はぐっと少なくなる。
わざわざ《八ツ辻》の連絡先をネットカフェで調べて公衆電話で――と言うほどのものでもない。さすがに命の危険が迫ればどんな手段を使ってでも一報を入れたが、現状の浬は『なんか知らんが生家に辿り着かない』程度のトラブルしか抱えていなかった。
まったく悪びれた様子のない浬の足先から頭の先までじろりと見渡し、九は『はぁぁぁああ』とこれ見よがしなため息を吐く。
「もういいわ、うん、その辺の説教はあたしじゃなくてみとやんの方が適任だろうしすっごいネチネチしてくれそうだから譲るわ……。まあとにかくアンタが五体満足で良かった、よし乗れ、さっさと出発すんぞ」
「は? なんでだよ、おれまだ用事終わってないから帰んないよ?」
「うるせーあんたの用事なんか知らん、どうでもいい、あたしはあたしの用事をこなすためにここまで来てんの」
「九さんの用事ってなんだよ、おれの生存確認じゃねえの?」
「んなわけあるか、もっと一大事だわ。四の五の言わずに乗れ、真面目にこんなとこでワイワイしてる場合じゃない。乗れ、ほら、早く、乗れッ!」
「いって! ちょ、ケツ蹴るな、待っ……おれは、井戸を――」
「アンタのせいで、マヨちが居なくなっちゃったんだよこのど阿保ッ!」
「――――――はぁ!?」
思わず、渾身の力で叫んでしまった浬に対し、九は至極真剣な顔で『乗れ、話はそれからだ』ともう一度尻を蹴った。
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