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3 美貌の画家(2)

「う…!」  目覚めた時には、部屋の中は薄暗かった。  太陽はすでに西の空に沈んでいる。ソファにのけぞったままおかしな姿勢で寝ていたので、全身が変なふうにこわばっていた。 「長い仮眠でしたな、エドアルド様」  背後でロレンツォの静かな声がする。 「ふん」  悪びれもせず、エドアルドは背もたれへとふんぞり返った。 「あと一時間で夕食(チェーナ)です。サンティとのご挨拶は、いかがなさいますか?」 (またサンティだ――――!)  頭に血がのぼり、理性が吹っ飛んだ。 「黙れ! 奴の名を何度も繰りかえすなっ、くそ!」  勢いに任せてオットマンを蹴飛ばすとデスクに当たり、ガレのスタンドライトが落ちてシェードが割れた。  ロレンツォが肩をすくめる。 「やれやれ。物に当たるなどあなたらしくもない――――。アメリカからのフライトでお疲れなのか。それとも、お加減の悪い理由は…」  ロレンツォの落ち着いた口調がいっそううっとうしく感じた。 「お前の皮肉にはうんざりだ、ロレンツォ。お前達のことだ、俺がニューヨークで誰と会ってきたのか、どうせ『調べはついている』んだろう?」  いらいらしながら喉の奥で唸った。今はロレンツォの顔を視界に入れるのすら(いと)わしい。 「むろんです」 (なんでも調べあげる、汚い奴ら――――)  ガナーに対するあまりの焦燥と喪失感に、普段なら思いもしないことを考えた。 「で? 何か言いたいことは?」  やけっぱちな笑みを浮かべるエドアルドに、ロレンツォは平坦な口調で告げる。 「あなた様はこの城の当主としてのみならず、組織の首領としての務めもしっかりと果たしておいでです。たまには息抜きもなさいませんと」 (息抜きだと――――?)  臓腑に鋭い痺れを感じた。  ゆっくりと立ちあがると、ロレンツォの真向かいに立った。憎しみをこめて睨み据える。 「勘違いするなよ。ガナーとの関係は息抜きなんかじゃない」 「ほう、そうですか。それならそれでかまいませんが」  淡々とした声で返される。 「どこまでも俺をイラつかせる奴だな」 「今回は、だいぶ(こじ)らせておいでですな、エドアルド様」  単調な口調に、いっそう怒りがこみあがた。  この男はずっとこうだ。  口ぶりこそ丁寧だが、エドアルドよりひとまわり近く年上だからといって、エドアルドをいつまでたっても出会った頃の子供のままに扱う。子守でもする目つきで、エドアルドのことならなんでも見抜いているような顔をするのだ。 エドアルドは拳を握りしめた。 「分かったふうな口を利くな。殴られたいか」  一方でロレンツォはあくまでも落ち着いている。 「私を殴ったところで、あなた様の問題は解決なされませんでしょう。お忘れになっては困りますな。ここでのあなた様には、があるのです。今、暴れたところで『彼』は現れないのですから」  ロレンツォの正論に、握りしめた拳が行き場をなくす。エドアルドは瞑目し、小さく吐息した。  つと、ソファに放ってあった背広を手にとった。 「…サンティに会われますか」 「ああ」  せめてと思って素っ気なく答えるのが精いっぱいだった。 「お一人で?」 「むろん、一人でいい。まさか人の生き血を吸う悪魔ではないのだろう」  虚しすぎて(わら)えた。  どう足掻こうが今は叶わない。  アメリカは遠く、ガナーとの何もかもを諦めるしかないのだ。  背広を着てネクタイを締めなおした。苦々しいだけのを演じるため、ロレンツォを残して聖堂へ向かった。

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