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第18話 運命の番 〈 side大和 〉

「俺と渚は『運命の番』だから」——。  俺がそう言った時、大きくつぶらな渚の目が更に大きく見開かれた。  やはり、気付いていなかったらしい。その事実に少しばかりの苛立ちと寂しさを感じた。  俺は出逢った瞬間に気付いたのに……。 『運命の番』とは——。  ご存知の通り、世界には男女の性の他に第二の性……α、β、Ωの三種の性があり、αとΩは『番』という絆で結ばれる事が出来る。が、相手のαやΩを選ぶかどうかはあくまで任意。時には望まぬ形で番契約を結ばされる痛ましい事例もあるが、Ωの発情期でなければ番にはなれないので、基本的には自身で相手を選べる。  逆に、αとΩの『本能』で惹かれ合うのが『運命の番』である。出逢い、目が合った瞬間に強烈に惹かれ合い、例え人混みの中でさえも周囲の雑音は消え、互いしか見えなくなる…らしい。そこには恋や愛が介在するよりも先に互いのフェロモンに反応する、人としての理性など呆気なく崩壊する程の、まるで獣の様な本能だけが存在するという。  αにもΩにも、世界の何処かに『たった一人の自分だけの運命』が存在するという。ただし、出逢える確率は極めて低い。生まれた国が違ったり、片方が成人していて片方が生まれたばかりの赤子……というケースも無くはない。運良く同じ国に生まれても、この世にどれだけの人間がいると思う? その中からたった一人の人。だからこそ、出逢える事が奇跡なのである。    ただ、本能が理性を凌駕する……というのは、都市伝説レベルで聞いた話であり、真実は定かではない。少なくとも、理性が崩壊する程ではない事は、俺自身が身を以て実感していた。  カフェの面接という名の顔合わせで渚と初めて対面した時、理性がグラつき本能を揺さぶられる感じがした。人はそれを『一目惚れ』と言うのだろうが、俺の頭の中では『俺の運命、俺のΩ』だと囁く声が聞こえた。それこそが正しく唯一を見つけた『αの本能』だったのだろう。だが、抱き締めたい衝動には駆られても、状況を見て、それを抑え込めるくらいには理性は働いていたから。    俺は渚が自分の唯一だと気付いたが、当の渚は気付いていないようだった。最初は気付いていて知らないフリをしているのかと思ったけれど、数日一緒に働いてみて、本当に気付いていない事を知る。それどころか、渚は俺を……否、αとはあまり深く関わらない様にしている事を知った。αを嫌っている訳ではなく、関わるのを避けている様に見えた。当然、渚にとっての俺はただのバイト仲間に過ぎなかった。   そして俺の方はといえば……。渚を好きになっていた、初めは本能で惹かれた事は否定しない。それでも数日一緒に働いただけで解る、渚のさり気ない気遣いや時折見せる可愛らしい笑顔に、どうしようもなく惹かれた。αの本能じゃない。俺自身の想いだと断言出来る。  自分の気持ちを自覚してから、勿論ちゃんと気持ちを伝えた。が、敢え無く撃沈。理由は『αだから』。しかし、一度振られたくらいで退く俺じゃない。αだというのが理由なら、αじゃない俺自身を知ってもらおうと、しっかり自らをアピールしながら、一定の間隔を開けつつ告白を繰り返し……。都度、断られていたある日、『あの事件』が起きた。    自称『俺の友人』と名乗る奴らの、渚に…Ωに対する侮辱発言。店内の異変に気付いて厨房から出た俺が目にしたのは、αの男に腕を掴まれ微かに震える渚の姿だった。自身の頭に血が上るのが解った。見覚えのある男だった。同じテーブルに着く奴らにも見覚えがあった。同じ専門学校の同級生。何故かいつも俺の側にいた男女。男達のテーブルまで行き渚を救い出すと、俺は男達を店外に放り出し、出禁を言い渡した。  無論、奴らは俺の友人なんかじゃない。俺は一言も友人だなんて言ってない。奴らは俺の名前……一ヶ瀬のブランドに集っているだけ。俺と仲良くしとけば得だと何を勘違いしたのか、いつも勝手に寄ってきて、俺は相手にしていないのに勝手に側で集まって雑談してる。面倒くさくて奴らを遠ざけなかった事を、今更に後悔した俺。  それからの俺は、それまでの少々強引とも言えた渚へのアピールを止めた。αの男によって怖い思いをした渚。友人ではないが知り合いではある男の行為を謝った俺に、「大和は悪くない」と言ってくれた渚。だけど、俺も奴と同じαだ。渚が俺に、仕事仲間としてだとしても好意を持ってくれていると信じていたからこそ、渚の心が落ち着くまで待とうと思っていた。だからこそ、渚からデート……一緒に出掛けないかと誘われた時は、本当に嬉しかったんだ。俺からの誘いはいつも断られていたから。  渚からのお誘いは一度だけじゃなかった。数日後に二度目のお誘い。この時の渚が何を思っていたかは判らない。けれど、俺はほんの少しの期待を抱いて、デートの最後にもう一度だけ告白しようと決めた。それでも駄目なら諦める。哀しいけれど、ただのバイト仲間に戻る。叶うならば、友人としてでも良いから傍に置いてほしいけれど、無理だろうな……。  期待半分、諦め半分でした告白に、渚は「俺も好き」と応えてくれた。嬉しくて、渚を強く抱き締めた。    交際を始める前にした渚との約束がある。 『発情期には会わない』——。  発情期にはどうしようもなくΩになってしまうから……Ωである事を強く認識されてしまうから……と渚は言った。それは俺も同じだった。発情したΩの前ではαの本能が剥き出しになってしまう。それがどうしようもなく怖かった。  運命の出逢いから約一ヶ月。  俺達は『恋人』になった——。

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