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第19話 埋まらない心の溝 〈 side大和 〉
こうして俺達の交際はスタートした。
カフェのオーナー夫妻には俺達が恋人関係になった事を正直に話した。夫妻は俺の渚への気持ちに気付いていたらしく、公私混同はしない事を俺達に約束させた上で祝福してくれた。
順調だと思っていた。きっかけが何であれ、少しずつ愛を育めていると信じていた。少なくとも俺は。
仕事中はバイト仲間として適切な距離感を保ちながら、プライベートでは電話やラインは毎日欠かさず、デートもしたし、発情期以外では肌を重ねた。
誰から見ても恋人同士。俺自身もそこに何ら疑問は持たなかった。渚も同じ気持ちだと疑いもしていなかったから。
渚が『消えた』あの日までは——。
渚がいなくなって、初めこそは混乱したし、闇雲に捜し回っては、自分が渚の事を何も知らず、渚の行きそうな場所すら判らない事に落ち込み茫然としたけれど、渚が自分の意思で姿を消したのかも知れないと思い至ってからは、いつか必ず捜し出して理由を聞くという決意を胸に、取り敢えず専門学校を卒業する事を最優先事項に決定。無事卒業した後は、自立する為に親が借りてくれていたアパートから引っ越して、資格を活かして就職した。
これで渚を捜す基盤が整った。
幸いというべきか、高校の頃の友人の一人が興信所に勤めていたから、そのツテで渚の捜索を依頼。担当してくれた人は、俺の話を聞いて最初は渋い顔をした。何故なら、捜し人がΩ性であり自ら姿を消したと思われるから。それでもなんとか引き受けてくれたけれど、Ω保護法により存在を秘匿されて見つからないかも知れない事、見つかっても本人に会う意思が無ければ会わせられないと言われた。それを納得した上で正式に依頼した。たとえ「会えない」と言われても無事でさえいてくれたらいい。そう自分に言い聞かせるしかなかった。
結論から言えば、三年経っても渚の所在すら判らなかった。恐らくは、やはり何処かのシェルターに身を寄せたのだろうとの事だった。
シェルターとは様々な理由から居場所を無くしたΩ達を保護する施設で、保護されたΩは国に報告された上で徹底的にその存在を秘匿されるという。逃げて来たΩも多いから、外部に居場所が漏れない様に。外部に秘匿される事で保護されているらしい。だから、Ω本人から連絡が無い限り、居場所は判らない。
捜索を依頼してから一年程経った時にはその事を聞かされ、国に秘匿されてはお手上げだと言われたが、三年……あと二年は他の仕事の合間で良いから捜索を続けてほしいとお願いした。
そして約束の三年が経ち……。手掛かり一つ見つからないまま、捜索は打ち切られた。限界を知った。
それから更に月日は流れ二年。
渚が姿を消してから六年が経ち……。
俺は思わぬ形で渚と再会した。
捜している時は見つからなかったのに、突然、俺が勤めるレストランの前に、六年前より大人になった分綺麗にはなっていたが、それでも渚だと一瞬で判るくらい変わらない姿で現れた渚。『奇跡』の再会。まさに『運命』だと思った。
名前を呼び、視線が絡んだ瞬間に逃げられ、追いかけ、今までどうしていたか問えば別れた事にされていて、泣かせて、雨に降られ、家に連れ帰り、風呂に入れて飯を食わせ、泊めて、そして『真実』を知った。
六年前、俺の子供を妊娠した渚。理不尽な暴行により流産した渚。俺が知らない所で子供が流れた罪悪感に六年経った現在も囚われている渚——。
姿を消した理由を知ってしまえば、勝手に別れた事にされていた怒りなど胸の内から消え失せた。たった独りで子供を喪った悲しみに涙を流したであろう当時の渚を傍で励まし、支えられなかった事が悔しくて堪らない。そして、その過去に渚の心は涙を流し続けている。
どんなに俺が「もう独りで苦しまなくていい。前に進もう」と言っても、渚は首を振り、謝るばかり。
そんな渚に俺は、学校を卒業したら番契約をお願いすると共にプロポーズをしようと思っていた事を話し、改めてプロポーズをしたけれど……。
断られ、愕然とした。
六年も遠回りをしたけれど、少しは期待したんだ。
渚との再会は偶然で、渚は俺に会いに来た訳ではない事は解っていたけれど、俺に真実を話した後で、渚から俺を求めてくれた。泣きながら、それでもはっきりと「抱いて」と。「優しくしないで。酷くして」と懇願されたけど、酷くなんて出来る訳がなく、涙を流し続ける渚を俺は優しく抱いた。
そして今朝、帰って来て欲しいと懇願した俺に渚は—ー。
首を横に振り、「どうして!」と叫ぶ俺に、自身が今身を寄せている場所を語り、そこが『自分の居場所』だと言った。
少しでも期待した分、拒絶されて感じた絶望。
納得なんて出来るか! 今でも好きだって言ってくれたじゃないか! 今でも愛してるって!
だから、渚が戻って来てくれるなら一生言わないつもりだった。結婚して番になれば普通のαとΩの夫婦と同じだから。言葉にしなくても自分だけが解っていればいいし、生涯渚を愛し抜く気持ちに偽りはないんだからさ。なのに、渚は受け入れてくれなかったから、あえて俺は言ったんだ。俺達は『運命の番』だって。
俺達が運命だって解れば思い留まってくれるかも知れない……と、僅かな希望に縋り付くしかなかった。
本当は言いたくなかったんだ。俺は俺として渚に恋をしたのに、αとΩが惹かれ合うのは『本能』だから運命なら尚更『本能』だろうと、そう言われるのが怖かったから……。
俺自身の気持ちを否定される事が怖かった。
言うつもりはなかったけれど、渚が俺から離れていこうとするから、俺の心は六年前から立ち止まったままなのに渚が自分だけ前に進もうと……違う、勝手に俺との関係を終わらせて一人だけ前に進んでいたから、哀しみと絶望と怒りとがない混ぜになって、心がぐちゃぐちゃになって、離れたくなくて……。
気が付けば言葉にしてた——。
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