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第34話 謝罪

 俺が落ち着くのを待ってから、お兄様が俺に謝罪をしたいと面会を希望していると、先生は言った。怖い思いをしたのだから無理をする事はないと先生は言ってくれたけれど、俺は「会います」と返事をした。  本当は謝罪なんて必要ないと思ってる。  あのメモを見れば、お兄様が怒って当たり前だ。   『会いたい』—— 『愛してる』——  そして、最後の……。 『αでごめん…』——。    俺にそんなつもりはなかった。大和のα性を否定するなんて事……。  俺はただ、大和にいつか他に好きな人が出来て捨てられるのが怖かったんだ。大和はαだし、イケメンだから周りが放っておかない。今は一途に俺を想ってくれても、心変わりは誰にでもあるんだ。大和が余所見する度に俺は不安になって、大和に当たって、傷付けて、そんな俺に疲れた大和が俺から離れていく。番になったら俺には大和しかいないのに……。  そんな起こるかも判らない未来に怯えて、大和を拒んだのは俺。大和がαだから……と思った時点で、大和のα性を否定したのと同義なんだから……。  そして俺は『運命』すら否定したのだから——。  俺の返事を受け、先生はお兄様を呼びに行ってくれた。その間に、ベッドの上で上体を起こす。  そしてお兄様は、部屋に一歩足を踏み入れた所で止まり、俺に向かって深々と頭を下げた。その角度九十度。その斜め後ろには門脇さんが立ち、同じく頭を下げている。角度は四十五度くらい。 「すまなかった。謝って済む事ではない事は解っている。君の妊娠を知らなかった、など言い訳にもならない。無抵抗のΩの君に威圧を放つなど、Ω保護法に違反する犯罪だ。訴えてくれても構わない。本当にすまなかった。私には言われたくないだろうが、子供が無事で良かった」  頭を深く下げたままのお兄様。  俺、本当に怒ってないのにな…。  俺が何か言うまで頭を上げそうにない。 「訴えませんよ」  俺が一言言うと、お兄様は漸く頭を上げ、意外そうな顔をした。門脇さんも頭を上げ、同じ様な顔をする。  いや、そんな顔されても……。 「俺、怒ってないです。怖かったけれど。お兄様が怒るのも仕方ないかなって思います。俺に大和のα性を否定しているつもりはなかったけど、俺、大和に言っちゃったから。αの大和とΩの俺は『違う』って。大和は他に大切な人が出来たらそっちに行けるけど、Ωの俺は番になったら大和から離れられない。見向きされなくなっても。そういう未来があるかも知れない。だから、αの大和とは生きられないって。結婚しても番にならない選択もあるとは思います。でも、αとΩが結婚して番にならないなんて現実的じゃないでしょう? そしたら大和、言いました。俺がαだからなのか、って。そんな自分じゃどうにもならない事で俺は捨てられるのか、って。だから、悪いのは俺なんです」 「「…………」」  お兄様も門脇さんも、言葉が出ない様だった。 「先生、椅子ありますか? 二脚……いえ、先生のも合わせて三脚」  先生はすぐに用意して、ベッド脇に並べてくれた。   「座って下さい。俺の家じゃないけど。 全部、話します。だって、たぶん、きっと、大和の事は俺のせいだと思うから。それに、知りたいから俺を捜したんでしょう?」 「「…………」」  お兄様と門脇さんは静かに椅子に座った。先生は気を遣ってか、少し離れた場所に椅子を置いて座った。  三人の顔を一度見回してから、俺は話し始めた。  六年前にバイト先で出逢い、大和からの告白で交際を始めた事。自分も大和が好きだった事。年始めの妊娠発覚から流産。妊娠した事も自分の不注意で流産した事も大和には言えず『逃げた』事——。  妊娠と流産のくだりの辺りで三人が同時に息を飲む気配がしたけれど、構わず続けた。  故郷を離れてからも年に一度は私用で帰郷していた事。いつも利用するのは同じ駅、そして、出来るだけ知人には会わないように降り立つのは夜。けれど、六年……六回目の去年十二月。『何故か』到着は昼、『偶然』目にしたカフェの前で大和と再会。  大和に突然姿を消した真実を話し、それでも「戻って来てほしい」と懇願した大和。番の申し込みと共にプロポーズをされたけれど、俺が拒否した事。今、自分には『居場所』があるから…と、俺を待ち続けて前に進めずにいる大和に、無責任に言い放った事。互いに喧嘩腰になり、『別れよう』『別れない』という互いに一歩も譲らないやり取り。そして大和は最後の手札とばかりに、俺達は『運命の番』だと言った。 「でも、俺は認めませんでした。大和のフェロモンに包まれると安心するんです。でも、それが運命かどうかは俺には判りません。俺が大和に好意を持っているからそう感じるのかも知れない。けど、大和が運命だというのならそうなんだろうと思う自分も確かにいるんです。だけど……。 それでも俺は大和を…選べなかった。来るかも判らない、大和を信じ切れない自分の未来に怯え、納得していない大和の元を去りました」  だから、もしその直後から大和の様子がおかしくなったというのなら、俺のせいかも知れない。本当のところは大和本人に聞いてみなければ判らないけれど……。

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