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懐かしい色をした美しい人<ギルフォード視点>(1/2)
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私が視察隊の一員として秘密裏にこの町に着いたのは昨日の事だった。
この町での仕事は、城へと届いた嘆願書の内容を確認することだ。
どうやら、この町の警備兵達はかなり横暴らしい。
町の人々の安全を守るはずの彼らが、町の人々の生活を脅かしているという手紙を何通も受け取って、王は以前にも視察隊を送っていた。
だが前回も前々回も、結局警備兵の態度にも書類にも問題は見つからないまま、視察隊は引き返していた。
しかし、それでも嘆願書は一通、また一通とこの町より届き続ける。
ゆえに、三度目となる今回は、視察可能な見識と地位を持ち、自衛可能な腕を持つほんの三名でこの町へと潜り込んだ。
にもかかわらず、一体どこから情報が漏れていたのか……。
警備兵達は真面目に仕事をこなしており、市場での噂にまで視察隊が来ているなどという会話を耳にした。
これではまた前回と同じ事の繰り返しではないか。
そう思いながらも、こっそりと民に紛れて警備兵達の動向を見張っていたところ、市場の端で騒ぎが起きた。
幼い子を相手に暴言を吐く警備隊長の様子を一字一句逃さず記録する。
これで後は、市民に暴力の一つも振るおうものなら、即刻この場で縄をかけられるのだが……。
そう期待した矢先、黒い影が宙を舞った。
くるりと空中で身を捻り、軽い音で着地したのは、細身の小柄な少年のようだった。
細い体に長い黒髪を後ろで一つに括った姿は一見すると少女のようにも見えたが、少女というにはあまりに全てが細い。
私の場所からは後ろ姿だけで顔は見えないが警備隊長がだらしのない顔をしている様子から、彼は美しい顔立ちをしているのだろうか。
少年が謝罪すると、あれほど怒りをあらわにしていた警備隊長はなぜか機嫌よく職務に戻った。
声の響きや話し方からして、少年のように見えた男はとうに成人を迎えているようだ。
私は警備隊長の横暴ぶりの決定的証拠を掴み損ねたことに苛立ちながらも、巡回を再開した警備兵団の後を追いかける。
少年改め青年の顔を確認しようと振り返った時には、青年は近くの屋台の男に声をかけられており、小柄な青年の姿は大柄な男の陰にすっかり隠れてしまっていた。
そこから、なんの収穫もないまま、さらに三日が過ぎた。
潜入七日後には各自の成果を持ち寄ることになっているが、このままでは私の成果は二日目にメモした警備隊長の暴言ひとつきりになってしまう。
いや、警備隊長は少年愛好家だとか、性癖が酷いらしいとかそんな情報は耳にしたが、個人の趣味で摘発というのは難しいだろう。
せめて、具体的に被害に遭っている少年がいれば違うのだろうが、警備隊長が現在夢中になっているのは二十五歳の青年だと聞いた。
外見的には少年のようだという彼だが、それでも実年齢が二十五歳では犯罪にはならない。
焦った私は、その夜、町で一番腕のいい情報屋だと噂の男に会うべく酒場にやってきた。
情報屋の男は、情報だけでなく体も売っているらしい。
酒場の男達には「金があるなら一度抱いてみろ」と勧められたが、あいにく私に男を抱く趣味はない。
酒場のマスターの話では、彼の定位置はカウンター席の隅らしく、私はその隣の席で彼を待った。
彼が今夜、来てくれればいいのだが……。
ジリジリとした焦燥を抱えながら薄い酒をチビチビ飲んでいると、マスターが、今夜会えないようなら伝言を受けてやろうと言ってくれる。
有難い申し出ではあったが、報告会は明後日だ。なるべく早く接触したい。
祈るような気持ちで店の扉を見つめ続けていると、やたらと小柄な男がランプを手に入ってきた。
顔はフードで隠れているが、チラと覗く顎のラインはほっそりと尖っている。
未成年ではないのか?
まさか、こんな夜中に、酒を買ってくるようにとでも言われたんだろうか……?
思わず、小柄な少年が酒飲みで暴れ者の親に脅される姿まで想像してしまい、眉を顰める。
すると、マスターが私に言った。
「よかったな」
……え?
情報屋の男が現れたのかと店の入り口を見る。
が、この少年の後に入ってきた者はない。
マスターは迷いなくこちらに向かってくる少年に声をかけた。
「お前に客だぞ」
「待たせたか?」
「そこそこな」
その声は、その低い身長とは釣り合わない程に、落ち着いた男の声だった。
チラとフードの男が私を見る。
その瞳はこの辺りではあまり見かけない珍しい色をしていた。
黒い瞳……。
それに、フードからチラチラと覗く髪も焦げ茶ではなく艶のある漆黒の髪のようだ。
今では記憶の中にしか残っていない懐かしいその色に、私は思わず息をするのも忘れて見入る。
「マスター、二階の部屋いいか?」
「ああ、朝までか?」
「どーだろな」
マスターが「ほらよ」と投げて寄越した鍵を、小柄な男は片手で難なく受け取ると、二歩ほど進んでから私を肩越しに振り返る。
「話は部屋で聞く、ついてこいよ」
「……あ、ああ……」
彼の後に続いて二階へと階段をのぼる私の耳に、男達のヒソヒソ声が届く。
あいつ完全に見惚れてたな、とか。ありゃ朝まで帰ってこねーんじゃねーか? とか。閉店までに降りてこない方に掛けるとか、そんな会話を聞きながら、私はもう一度先程聞いた情報を頭の中で繰り返した。
目の前を歩く、この小柄な情報屋の男は、情報だけでなく体も売っている。
……それでは、私は彼に金を払えば、失ってしまった彼女と同じ髪と目をしたこの人を抱く事ができるのか……?
……本当に……?
そんな、事が……、私に……許されるのか……?
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