6 / 22
怖いほどの快感*
「なんでも言ってみろよ。聞くかどうかは別だが」
俺の言葉に、男は躊躇いを呑み込むようにして口を開いた。
「その……、君を、彼女の名で呼んでもいいだろうか?」
何だ、そんなことか。
俺は拍子抜けして思わず苦笑した。
「好きに呼べよ。お兄さんは俺に何で呼んで欲しいんだ?」
「わ、私のことは……ギルと呼んでくれたら、有難い……」
懐かしい響きに一瞬動揺する。
い、いやいや、良くある愛称だろ。
ギルバートとかギルベールとかギルベルトとかさ。
……ギルフォードじゃなくても、いっぱいあるよな……?
俺は僅かな違和感を抱えながらも、男を呼んでやる。
「ギル……」
久々に口にした義兄の愛称は、俺を何とも言えない気分にさせた。
懐かしいような、苦しいような、あの頃に戻りたいような、戻りたくないような……。
そんな感情がザワザワと胸に込み上げてきて息が詰まる。
「ああ……、ありがとう……」
まるで吐息のような感謝の言葉を吐いて、男は俺をそっと抱きしめた。
「あの時、貴女を守りきれなくて本当に……すまなかった……」
ああ、この男は多分長いこと、ずっとずっと……その子に謝りたかったんだろうな。
俺は何も言わずに男の背をゆっくり撫でてやる。
「あれからずっと、私はこの身を鍛え続けてきた。今ならきっと、……貴女を守り切る事ができるのに……」
ふーん、そんでこの男はこんなにムキムキなわけか。
俺を包む両腕も、俺に触れる分厚い胸板も、服の上からでも伝わるずっしりとした筋肉量だ。
「もし貴女ともう一度会う事ができたら……、もう二度と貴女に辛い思いはさせない……」
ん?
その子とは死に別れ……ではない、のか……?
それともあの世でって話か?
こいつ、ふわっとした髪と瞳の色合いにそぐわないほどに重い男だな……。
この容姿に金まで持ってるなら、その気になれば彼女の一人や二人すぐできそうなのにな。
そんな思い詰めずに新しい恋でもしたらどうだ?
なんて、今は言うわけにもいかねーけどさ。
まあけど、……こんだけ一途に思ってもらえる女は、きっと幸せだな。
俺にもこんな風に思ってくれる奴がいたらいいのにな。
こんな男なら、好きな女はそりゃもう大事に抱くんだろうな。
……なんてことを不用意に思ってしまった俺が悪かったんだろうか。
男は、俺が思うよりずっとずっと丁寧に、俺の体を隅々までふわふわと撫でては口づけ、優しく蕩かしてゆく。
「ぁ……っ」
意図せず漏れた自分の声に、俺は耳を疑った。
厚い指の皮に所々タコのある、ゴツゴツした男の指。
そんな剣を振る者独特の硬い指が、見た目よりもずっと繊細に俺の肌を撫でる。
触れるか触れないかほどの淡い感触がもどかしくて、余計にその指の動きを追ってしまう。
……っ、なんか、鳥肌立つみたいな……。
なんだこれ、ぞくぞくする……。
ドクドクと心臓の音が大きくなってきて、まるで耳のすぐ横で鳴ってるみたいだ。
キスを求める男に許可を出したら、今度はこれでもかという程に口内を愛撫し尽くされて、俺の息はすっかり上がり切った。
「ぅ、ぁ、……んんっ、ぅ……」
これまで演技でしか口にしたことのないような喘ぎが、幾つも幾つも、絶え間なく俺の口から溢れる。
俺は自分の体が徐々に制御できなくなってゆく事に、どうしようもない焦りと恐怖を覚える。
「ぁ……、なんで、こん、な……っ」
今まで感じたことのない、じんじんとした甘い疼きが、腹の奥に溜まってゆくみたいで、怖い。
「も、入れて、いーって、言って……んっ、んんんっ、っぅああっ」
俺の身体は、酒場を訪れる前に準備だけはすませてる。
だからこんな前戯なんかいらねーし、さっさと突っ込んでくれていいのに。
男はいつまでも俺の身体を撫で回していた。
これまで数え切れない程の男達を相手にしてきた俺が……、なんで、こんな……っ。
まだ俺のモノは触れられてもいないのに、先走りをたらたらと垂らしていた。
くそっ、まだ入れられてもねーのに……っ!
っつーか俺ばっか可愛がってんじゃねーよ!
さっさと入れろよ!!
俺は快感に震える指を必死で伸ばして、男の大きく膨らんだ股間を撫でる。
途端、男がびくりと身体を震わせた。
「ぅ、ぐ……っ」
こんなちょっと触られたくらいで呻くほど辛いなら、我慢してねーで出しちまえよ。
俺は男の腰に巻かれたベルトを手早く外すと、ズボンごと下着まで全部下ろした。
男のそれは、今まで見た誰よりも立派なサイズをしていた。
「っ」
男が小さく息を呑む。
その音にすら煽られるようで、俺は男のモノを撫でてねだった。
「ギル……もう、入れて……」
男の蜂蜜色の瞳がギラリと輝いて、俺の両脚を大きな手が掴む。
熱いものが後ろに触れる感触に、俺は内心ホッとした。
こんだけガチガチなんだ。
入れてくれれば、あとはすぐだろう。
さっさと出して終わりにしてもらわねーと。
このままいつまでもこの男に撫でられていたら、自分の体が自分の体じゃなくなってしまいそうで、正直不安だった。
だが、ずぷ、と入り込んできたそれは、俺の使い込まれた穴にも少し厳しいサイズで……。
「あ、あ、あ、ぁああっ、っっっ、ンンッ――」
みちみちと内側を押し広げながら入り込まれる感触に、どうしようもなく快感が湧き上がって、息ができない。
中に仕込んでおいた潤滑油が逃げ場を失って、男のそれが進むにつれて俺の奥へと押し込まれる。
「……っ、っ、んんんんっ!!」
なんだこれなんだこれなんだこれ!!!
男の腰が進む毎に、今まで感じたことのない鋭い快感が腰から生まれて俺の背筋をいくつもいくつもビリビリと駆け上がる。
知らない!
こんな感覚は、知らな……っ!!
思わずギュッと目を閉じる。
「ん、ンンッ、……っ、んっ……」
次第に足の裏までが、ジンジンと熱く痺れてたまらなくなる。
腹の奥に溜まってゆく快感が、もう溢れてしまいそうで、怖い。
これがいっぱいになったら、俺は、どうなるのか……分からない……。
「ぁ……、ぅあ……っ、ん…………っっ」
こんなの、今までなかった。
いやだ、このままじゃ、俺はおかしくなりそうだ。
じわりと涙が滲んでくる。
ダメだ、早く、止めないと、もう……っっ!
俺は必死で目を開いて、潤んだ視界の向こうにいる男へ縋るように手を伸ばした。
「っ、ギル……っ、まっ……」
浅く抜き差しをしながらゆるゆると進んできた男のものが、止めようとした途端、どちゅっと俺の奥を強く叩いた。
途端、何かが弾けたみたいに、目の前にパチパチと光が舞って、頭が真っ白になった。
「んんんっ! ぁあああんんんんんんっっ!!」
触れてもいない俺の前から、勢いよく白濁が吐かれる。
なん、だ、これ……、俺、ナカだけで、イった、のか……?
いつもは相手に合わせて腹に力を入れて締めてやるのに、今は俺の意思なんて関係無しに、俺の腹が勝手にぎゅうぎゅうと男のものを締め付けて、それがまたどうしようもなく気持ち良くて……。
一人先にイってしまった申し訳なさに、俺は上がる息の間から必死で男の様子を伺う。
男の瞳は、琥珀のような色に煌めいて、穴が開くほど一途に俺を見つめ続けていた。
「ぁ……、ごめ、ん、ギル……」
途端、優しげな眉が、ぎゅっと苦しげに寄せられた。
「謝らないでくれ……っ」
あ、これはあれか、別れ際に彼女に謝られたのか……? なんて思った次の瞬間、俺の思考は強烈な快感に霧散した。
男は俺の身体を軽々と抱き上げると、切羽詰まった様子で俺を激しく突き上げ始めた。
「ンンンンッッッ――!!?」
既に達したはずの俺の身体は、まだ男を強く締め続けているのに、そんな、中を、こんな、激しく、穿たれた、ら……っ!
ぁ……、なんだ、これ、ナカ……イくの、っ止まんねぇ……っっ!?
「ぅあ、っぁ、ギル……っぁあぁっ、や、ぁ、んんんっっ、ギル……、ギル、やぁ……っ」
止めろって、そんな簡単な言葉すら吐けない。
だらしなく嬌声をこぼす唇を、閉じることすらままならない。
もう既に咽せ返るほどの快感に溺れた体に、これでもかと鋭い快感を叩きつけられる。
「ひぁ、ぁぁあぁっ、ぐ、ぅ、ぅぁんンンンンンンッ!」
身を捩って、涙を散らして、それでも逃れられない快感に、俺の体は勝手に跳ねて、手足すらまともに動かせない。
なんだ……!? なんなんだよっ!?
こんな……、こんなの、俺は、知らな……っ!!
ドクン、と俺の中で既にミチミチだった男の物が大きく膨れ上がった。
もう限界だ、と頭の隅が警告した。
さっきの比ではないほどの激しい快感の渦に、頭だけでなく目の前までが白く染まる。
俺の腰は男の硬い大きな手で掴まれていて、さらに激しく穿たれているはずなのに、もう俺には自分の体がどうなっているのかも、自分が何と叫んでいるのかもわからなかった。
「ああ……、セレスティア……愛してる……」
薄れゆく意識の終わりに、俺の耳元で切なげに囁かれたのは、十六年前に捨てた俺の名だった。
ともだちにシェアしよう!

